人は、最後にもう一度だけ意志を表すことができる。遺言によって財産の一部を、自分が信じる活動へ遺す——それが遺贈寄付である。家族への相続と両立させながら、自分が生きた証を社会の側に残す方法だ。しかし「やってみたい」と思っても、何から手をつければよいのか、税金はどうなるのか、家族と揉めないかと、実務の入口で立ち止まる人が多い。本稿は、遺贈寄付を実際に進めるための全手順を、意志の整理から遺言の作成、税金、受遺先の選び方、遺留分への配慮まで、順を追ってたどる決定版ガイドである。

この記事の要点
遺贈とは
遺言により、法定相続人以外の人や団体へ財産を無償で渡すこと。相続と両立できる
4つの方法
特定遺贈/包括遺贈/相続人による相続財産からの寄付/信託・生命保険を使う方法
遺言は2方式
自筆証書遺言(法務局の保管制度で検認不要)と、無効リスクの低い公正証書遺言
税金
公益法人等への遺贈は相続税の対象外(措置法70条)。ただし不動産・株式はみなし譲渡課税に注意(措置法40条で非課税化可)
家族との両立
相続人がいる場合は遺留分に配慮した設計が不可欠

遺贈寄付とは——相続とどう違うのか

遺贈とは、遺言によって財産を無償で他者に与える行為である。相続が「法律で定められた相続人」へ財産が承継される仕組みであるのに対し、遺贈は遺言者が自分の意志で渡す相手を選べる。だからこそ、法定相続人ではないNPOや財団といった団体にも財産を遺せる。これが遺贈寄付だ。

重要なのは、遺贈寄付は相続と二者択一ではないということである。財産の大半を家族に相続させながら、その一部を社会へ遺す——そうした併存が普通の姿だ。額の多寡ではなく、「何を残したかったのか」を形にする行為である。遺贈寄付の現在地でも触れたとおり、その意向を持つ人は静かに増えている。

4つの遺し方を知る

「遺贈寄付」と一口に言っても、実務上の方法は一つではない。大きく4つに分かれる。

(1) 特定遺贈。「現金1,000万円を◯◯に遺贈する」のように、財産を特定して渡す方法。渡す対象が明確で、原則として団体は負債を引き継がない。最も使われる形である。

(2) 包括遺贈。「全財産の3分の1を◯◯に遺贈する」のように、割合で指定する方法。受遺者は相続人と同一の権利義務を負い、プラスの財産だけでなく負債も承継する。団体側が受け入れをためらう場合があるため、選ぶ際は事前相談が欠かせない。

(3) 相続財産からの寄付。遺言ではなく、相続した遺族が自分の意志で財産の一部を団体へ寄付する方法。申告期限までに国・地方公共団体や特定の公益法人等へ寄付すれば、その分は相続税の対象外になる特例がある。

(4) 信託・生命保険を使う方法。特定寄附信託や遺言代用信託で計画的に寄付する、あるいは生命保険の受取人に団体を指定する。保険金は遺産分割を経ず受取人に渡るなどの利点がある一方、団体側の受入可否の確認が必要だ。

進め方——5つのステップ

遺贈寄付は、思い立ってすぐ完成するものではない。次の順序で進めると、迷いが少ない。

STEP 1意志を整理する。誰に・何を・どれだけ遺したいか、家族と社会の配分を考える。これがすべての出発点になる。
STEP 2受遺先を選び、事前に確認する。団体が遺贈を受け入れているか、不動産など金銭以外の財産に対応できるかを問い合わせる。
STEP 3遺言書を作成する。自筆証書か公正証書かを選び、遺贈先・財産・割合を明記する。
STEP 4遺言執行者を指定する。受遺団体への引渡しなど手続きを担う人を決めておくと、実現が円滑になる。
STEP 5保管し、必要に応じて見直す。法務局の保管制度や公証役場で安全に保管し、状況変化に応じて書き換える。

遺言書の作り方——2つの方式

遺贈寄付の核は遺言書である。日本の遺言には主に二つの方式がある。

自筆証書遺言。本人が全文・日付・氏名を自書し押印する方式。手軽だが、形式不備で無効になったり紛失・改ざんの恐れがある。これを補うのが2020年7月に始まった法務局の自筆証書遺言書保管制度だ。原本を法務局が預かり、保管された遺言は家庭裁判所の検認が不要になる。

公正証書遺言。公証人が関与して作成し、原本が公証役場に保管される方式。費用と手間はかかるが、無効リスクが低く、検認も不要。財産が大きい場合や確実性を重視する場合に向く。遺贈寄付では、受遺先・財産の特定を正確に書くことがとくに重要なため、専門家と公正証書で作るケースが多い。

税金の論点——ここを外さない

遺贈寄付では税務が成否を分けることがある。要点は二つだ。

相続税は原則かからない。国・地方公共団体や一定の公益法人、認定NPO法人等への遺贈・相続財産の寄付は、相続税の課税価格に算入されない(租税特別措置法第70条)。社会へ遺した分に相続税はかからないのが原則である。

不動産・株式は「みなし譲渡」に注意。含み益のある不動産や株式を法人へ遺贈すると、所得税法第59条により時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に譲渡所得課税が生じうる(準確定申告で相続人が負担する場合がある)。これを避けるには、公益法人等への寄付について租税特別措置法第40条の非課税承認を受ける、あるいは現金化してから寄付する清算型遺贈にするなどの設計が要る。株式の現物寄付と論点は共通する。

税務は個別性が高く、誤ると遺族に負担が残る。必ず税理士など専門家に確認しながら設計してほしい。

受遺先の選び方

意志を託す相手をどう選ぶか。三つの観点で確認するとよい。

受け入れているか。すべての団体が遺贈を受け付けているわけではない。窓口の有無、過去の受入実績を確認する。

現金以外に対応できるか。不動産・株式・美術品などは、団体が換価・管理できないと受け取れない場合がある。清算型遺贈(遺言執行者が売却して現金を寄付)が現実的な選択肢になることも多い。

使途と信頼性。遺したお金が何に使われるか、財務やガバナンスは健全か。財団・基金データベースで分野や設立背景を調べ、団体の活動実態を確かめてから決めたい。

家族との両立——遺留分への配慮

遺贈寄付でもっとも避けたいのは、遺された家族の争いだ。配偶者や子などの法定相続人には遺留分という最低限の取り分が保障されており、寄付がこれを侵害すると、遺族が受遺団体へ遺留分侵害額請求を行う事態になりかねない。全財産を寄付する内容であっても、相続人がいる場合は遺留分に配慮した配分にしておくことが、団体にとっても遺族にとっても安全である。

逆に、配偶者も子もいない「おひとりさま」の場合、遺言がなければ財産は最終的に国庫へ帰属しうる。遺言で受遺先を指定すれば、自分の意志で財産を社会に役立てられる。遺贈寄付の意義がとくに大きい場面だ。

誰に相談すればよいか

遺贈寄付は、遺言の作成と税務という二つの専門領域にまたがる。弁護士・司法書士・税理士、信託銀行、そして受遺団体の窓口が相談先になる。中立的な相談窓口として、全国レガシーギフト協会(いぞう寄付の窓口)のような団体も整ってきた。

「自分の場合、家族への相続と社会への遺贈をどう配分すべきか」「どの団体に、どの財産を遺すのが最適か」——この設計こそが核心であり、最も悩ましい。philanthropist.jpは遺贈寄付の意志の設計と寄付先の選定に、金融商品を売らず成功報酬も受け取らない中立の立場で伴走する。最後の意味の設計を、一人で抱え込まなくてよい。

出典・参照

本記事は一般的な情報提供を目的とし、特定の遺贈・寄付行為を推奨・勧誘するものではない。制度・税制の細部は改正されることがあり、実際の遺言作成・税務は弁護士・税理士・司法書士等の専門家に必ず確認されたい。