前々回で「現金の何倍」という物差しを、前回でその物差しの作り方を見てきた。理屈はわかった。では実際に、日本の一つの分野へ当ててみるとどうなるのか。本回は、子どもの貧困を題材に、この物差しを使ってみる。あらかじめ正直に言っておくと、きれいな倍率は出ない。だが、出ないという事実そのものから、見えてくるものがある。

なぜ、子どもの貧困なのか

この分野を選ぶのは、三つの理由からである。第一に、課題が見えにくい——日本の子どもの貧困は飢えではなく「相対的貧困」として現れ、外からは判別しづらい(厚生労働省の調査が継続的に把握している)。第二に、担い手が豊富で、学習支援・居場所・食事・現物給付など、支援の型が多様にある(テーマ別ブリーフ参照)。第三に、にもかかわらず「どの支援が、どれだけ効くのか」という効果の検証はまだ薄い。型は揃っているのに、効きめの比較が乏しい——ここに物差しを当てる意味がある。

まず、変化の理論を描く

費用対効果を問う前に、前回の通り「変化の理論」を描く必要がある。たとえば学習支援なら、こうなる。投入(資金・スタッフ・場所)→活動(週次の学習会・声かけ)→産出(参加した子どもの数・回数)→成果(学力の維持、登校の継続、進学、そして長期的には自立と所得)。居場所支援なら、産出は「安心して居られる時間」、成果は「孤立の緩和、自己肯定感、不登校の改善」となる。現物・現金給付なら、産出は「届いた支援額」、成果は「栄養・体験・学習機会の確保」である。型ごとに、狙う成果が違う。これを言葉にしないまま「子どもの貧困に寄付した」と言っても、何を変えたのかは曖昧なままだ。

何が測れて、何が測れないか

道筋を描くと、測定の難所も見えてくる。比較的測りやすいのは、出席率、学習会の継続、進学率といった、近い成果(アウトプットに近いアウトカム)である。一方で測りにくいのは、その子の人生の軌道——10年後の所得や幸福、世代を超えた貧困の連鎖が断たれたか——という、本当に見たい遠い成果である。遠いほど、他の無数の要因が混ざり、その支援のおかげだと言い切れなくなる。効果検証の誠実さは、「測れる近い成果」で満足せず、しかし「測れない遠い成果」を測れたふりもしない、その間のぎりぎりに立つことにある。

「現金の何倍か」を、日本で問えるか

では、本丸の問いに進もう。子どもの貧困への各支援は、ただ困窮世帯へ現金を配るより効果的か。残念ながら、日本でこれに数値で答えるための土台は、まだ十分でない。困窮世帯への現金給付が子どもの発達に与える効果を厳密に測った国内の大規模な検証は、海外に比べれば乏しい。海外では、現金給付が子の認知発達や健康に与える影響を、対照群を置いて検証する研究が蓄積されつつあるが、制度も物価も家族のかたちも異なる日本へ、その数字をそのまま持ち込むことはできない。だから現時点での誠実な答えは、「正確な倍率は出せない。だが問いの立て方は輸入できる」である。

それでも、解像度は上がる

倍率が出ないなら、この物差しは無力なのか。そうではない。寄付先を選ぶとき、次の問いを当てるだけで、見え方は変わる。この団体は、何を成果と考えているか。それを何で確かめているか。出席率どまりか、その先の変化まで見ているか。同じ資金を別の型(たとえば現金給付)に使った場合と、比べて考えたことがあるか。これらに明確に答えられる団体と、答えに詰まる団体とでは、資金の効きめはおそらく違う。数字がなくても、「効果を問う姿勢があるか」は見分けられる。物差しの本当の使いどころは、精密な計算より、この問いを習慣にすることにある。

寄付者が、いますぐできること

具体的に、三つ挙げたい。第一に、成果指標を尋ねる。寄付を検討する団体に「何をもって成功とみなし、どう測っているか」を訊く。良い団体はこの問いを歓迎する。第二に、近い成果で満足しない。報告される数字が活動量(何回・何人)にとどまっていないか、その先の変化に触れているかを見る。第三に、長く伴走する。子どもの育ちは年単位であり、単発の寄付より、数年続く支えのほうが成果に近い。これらは難しい専門知識ではなく、姿勢の問題である。

結び——数字の不在を、言い訳にしない

この回の結論は、逆説的に聞こえるかもしれない。日本では費用対効果の精密な数字は出せない。だからといって、効果を問うことをやめてよいわけではない——むしろ逆だ。数字がないからこそ、問いを立てる責任は寄付者の側に移る。何を狙い、何で確かめるのか。その問いを、団体に、そして自分自身に向け続けること。それが、データの薄い日本で「効果的に与える」ということの、いまの現実的な姿である。次回からは、こうした問いを実際に支援設計へ落とし込む方法を、より具体的に扱っていく。物差しは、飾るためではなく、使うためにある。

出典・参照

  • 厚生労働省「国民生活基礎調査」(子どもの相対的貧困の状況)
  • 認定NPO法人カタリバ/全国こども食堂支援センター・むすびえ/公益財団法人あすのば 各公式情報(子ども・貧困・福祉ブリーフ
  • 連載:第1回第2回

本記事は一般的な情報提供・思想紹介を目的とし、特定の団体・寄付行為を推奨・勧誘するものではない。費用対効果の推計には多くの仮定が含まれ、手法には諸説がある。海外の研究知見は日本の制度・データと前提が異なるため、そのまま適用できない。子どもの貧困は微妙な主題であり、当事者の尊厳に配慮した記述を心がけている。