財団を作るほどの手間はかけたくない。だが、まとまった額を、一度に一団体へ渡して終わりにもしたくない。年ごとに、複数の活動を、自分の意思で支援していきたい——そう考える寄付者のための「器」が、2025年12月、日本でようやく制度として開いた。ドナー・アドバイズド・ファンド、略してDAF。その日本初の本格的な仕組みが「DAFあらた」である。

DAFとは何か——寄付の「中間口座」

ふつうの寄付は、「お金を出す」と「特定の団体に渡る」が同時に起こって完結する。DAF(Donor-Advised Fund/寄付者助言基金)は、その間に、自分専用の基金口座を一枚挟む仕組みである。

流れはこうだ。寄付者はまず、公益財団法人などの運営者にまとまった資金を入れる。この時点で寄付は法的に完了し、税制優遇(寄付金控除)を受けられる。しかし資金はすぐ全額が使われるわけではない。寄付者の名前を冠した基金として分別管理され、運用されながら、「どの団体に、いくら出すか」を寄付者が後から助言(advise)していく。この「先に寄付として確定させ、配分は後からゆっくり決める」という時間の分離が、DAFの核心である。

位置づけとしては、直接寄付と自前の財団のあいだにある。財団の運営ノウハウと税制メリットを借りつつ、財団設立ほどの手間・コスト・継続義務は負わない。いわば「ミドルレンジ」の選択肢である。本サイトが財団・基金設立支援で「冠基金」と呼んできたスモールスタートの発想に、DAFは運用という機能を加えたものと考えるとわかりやすい。

米国では巨大な仕組み

米国では、DAFはすでに寄付インフラの中核を担っている。三井住友信託銀行の公表によれば、米国のDAFは2023年時点で約180万の基金、総資産は約37兆円規模に達したとされる。富裕層を中心に認知が広がり、近年は寄付全体に占める比率も高まってきた。一方で、「税優遇だけ先に取り、実際の配分が進まないまま資金が滞留しているのではないか」という批判も生まれており、制度の光と影が同時に議論されている。日本がこの仕組みを導入するにあたっては、こうした先行する論点も引き継ぐことになる。

日本版「DAFあらた」

これまで日本には、この形が制度として存在しなかった。2025年12月、三井住友信託銀行とパブリックリソース財団が協定を締結し、日本初の本格的なDAF「DAFあらた」を立ち上げた。両者が2023年から進めてきた「信託とフィランソロピー」の共同研究の成果である。実務的な要点を整理する。

入口。基金の創設は500万円以上から、追加の寄付は10万円から。寄付は全額が寄付金控除の対象となる。

運用。基金は寄付者ごとに個別に分別管理され、三井住友信託銀行のバランス型インデックス投資信託で運用される。運用しながら、時間をかけて支援していける設計である。

命名と継続。基金には任意の名前をつけられる(たとえば「○○メモリアル基金」)。複数年にわたって複数の団体を支援でき、承継者を指名すれば、寄付者の死後も独自の社会貢献を続けていける。

支援先。寄付適格と認証された団体のリストから、寄付者の希望に沿って支援先を指定する仕組みになっている。「運用しながら育てて、リストから選んで出す」というパッケージ化が、日本版の独自性である。

「あらた」という名のとおり、これまで限られた富裕層や法人に事実上限られていた「運用型の社会貢献基金」の設立ハードルを下げ、より多くの人が使えるようにすることが、その狙いである。

誰が使うべきか

DAFが向くのは、おおむね次のような人である。第一に、器を持ちたいが財団は重いと感じる人。設立・運営の事務から解放されつつ、自分の名で継続的に支援したい層に、DAFはちょうど収まる。第二に、テーマがまだ定まりきっていない人。先に寄付として確定させ、配分はじっくり考えたいというニーズに、時間の分離が応える。第三に、次世代へ意思を引き継ぎたい人。承継者指名は、家族へのフィランソロピー継承の入口になる。逆に、特定の一団体だけを長く支えると決まっているなら、直接寄付のほうが素直である。

日本版の限界と、これからの論点

「DAFあらた」は画期的な第一歩だが、米国型と比べると現時点での制約も明確である。米国のDAFは支援先を寄付者がほぼ自由に指名でき、上場株式の現物寄付——含み益への課税を避けつつ寄付する手法——が一般的だ。これに対しDAFあらたは、現時点で支援先が提示リストからの選択制であり、入口も現金(500万円〜)が基本である。そして、欧米の「効果的な寄付(effective giving)」が重視するような、費用対効果に基づく寄付先の評価までは踏み込んでいない。

つまりDAFあらたは、寄付の「インフラの第一歩」であって、支援先選定の透明性や、現物寄付の柔軟性、効果に基づく配分といった論点は、これからの課題として残されている。器が一つ、日本に生まれた。次に問われるのは、その器に何を、どんな根拠で入れるかである。

結び——器はできた。中身はこれからだ

編集部の視点から見て、ここがいちばん面白い。日本版DAFは「器」を用意したが、その中身——どの団体が効果的なのか、なぜそこに出すのか——を埋めるコンテンツは、日本語ではまだほとんど空白である。費用対効果で寄付先を考えるという思考様式も、DAFあらたの運用実績や助成成果を追いかける定点観測も、これから誰かが書いていかなければならない。

本サイトは、その空白に立つ。器の解説で終わらせず、「何のために、どこへ、どう与えるか」という中身の設計を、これからも論じていく。DAFという新しい器を手にした人が、最初に開くべき問いは、フィランソロピー・ロードマップにある——なぜ、あなたは与えるのか。

出典・参照

本記事は一般的な情報提供を目的とし、特定の金融商品・寄付プログラムの利用や、税務上の判断を推奨・勧誘するものではない。制度の詳細・最新情報は各運営者の公式発表を確認のこと。税制の適用は個別事情により異なるため、税理士等の専門家に相談されたい。