教室の窓際で、授業中に眠りに落ちる生徒がいる。怠惰と見なされがちなその姿の背後に、家族のケアに費やされた長い夜があることを、日本社会が統計として知ったのはわずか数年前のことである。ヤングケアラー——制度の網目から零れ落ちてきた「見えない子どもたち」に、資金はどうすれば届くのか。制度と実務の両面から考えたい。

この記事の要点
5.7%(約17人に1人)
令和2年度の国の全国調査で「世話をしている家族がいる」と答えた中学2年生の割合。1クラスに約2人に相当する(厚生労働省・文部科学省、2021年公表)。
平日1日平均4時間
同調査で世話をしている中学2年生がケアに費やすと答えた時間。約1割は7時間以上と回答した。
2024年6月
改正子ども・若者育成支援推進法が成立・施行。ヤングケアラーが初めて法律に明記され、年齢で区切らない支援対象と位置づけられた。
32条例
全国のケアラー・ヤングケアラー支援条例の数(2025年3月時点)。2020年3月制定の埼玉県ケアラー支援条例が全国初である。
国3分の2
こども家庭庁「ヤングケアラー支援体制強化事業」の補助率。コーディネーター配置等の自治体経費を国が支える(令和7年度は児童虐待防止対策等総合支援事業費補助金207億円の内数)。

一クラスに二人、という発見

2020年度(令和2年度)、厚生労働省と文部科学省は初めて、子ども本人を対象とするヤングケアラーの全国実態調査を実施した。2021年に公表された結果は、静かな衝撃をもって受け止められた。「世話をしている家族がいる」と答えたのは、公立中学2年生の5.7%、全日制高校2年生の4.1%。中学であれば1クラスに約2人という計算になる。翌2021年度(令和3年度)の調査では、小学6年生の6.5%、大学3年生の6.2%という数字も示された(日本総合研究所受託、2022年3月報告)。

数字の深部はさらに重い。世話をする中学2年生が平日1日にケアへ費やす時間は平均4時間、約1割は7時間以上と答えた。授業と睡眠を除けば、可処分時間のほぼすべてである。しかも令和2年度調査では、中高生の8割超が「ヤングケアラー」という言葉自体を聞いたことがないと回答した。当事者は自らを支援の対象と認識していない。ここに、この問題の最も厄介な性質——「見えなさ」がある。

「名前」を得るまでの長い時間

制度が動いたのは、統計より条例が先だった。2020年3月、埼玉県が全国初の「ケアラー支援条例」を制定し、ケアを担う者を社会全体で支えると宣言した。以後、条例制定の動きは各地に広がり、一般社団法人ヤングケアラー協会の集計では2025年3月時点で全国32条例を数える。埼玉県入間市や栃木県鹿沼市のように、ヤングケアラーに特化した条例を持つ自治体も現れた。

国のレベルで画期をなしたのが、2024年6月に成立した改正子ども・若者育成支援推進法である(同年6月5日可決、6月12日施行)。改正法はヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められるこども・若者」と定義し、国と自治体が支援に努めるべき対象として初めて法律に明記した。あえて年齢の上限を置かず、18歳を越えても切れ目なく支援が続くよう設計された点も重要である。もっとも、法が与えたのは「名前」と努力義務であり、財源とサービスの中身は、なお現場に委ねられている。

公的支援の骨格と、その隙間

2023年に発足したこども家庭庁は、ヤングケアラー支援を虐待防止対策の枠組みの中で所管し、「ヤングケアラー支援体制強化事業」を通じて自治体の実態調査、ヤングケアラー・コーディネーターの配置、訪問支援員やピアサポート事業などの経費を国3分の2の補助率で支えている(令和7年度は児童虐待防止対策等総合支援事業費補助金207億円の内数)。制度の骨格としては整いつつあると言ってよい。

だが隙間は残る。第一に、事業は手を挙げた自治体でしか動かない。第二に、子どもは自ら窓口に来ない。家族への愛着と忠誠、「家のことは家で」という規範、そして知られることへの羞恥が、声を上げることを妨げる。第三に、学校・介護・障害福祉・医療の縦割りの間隙に、この問題は正確に位置している。公費は「制度に接続された後」を支えることには長けているが、接続以前——気づき、信頼関係を築き、伴走する初期の局面は、多くが制度の外にあるのだ。

民間資金の現在地

その隙間を埋めようとしているのが民間資金である。最大規模の取り組みは日本財団の「ヤングケアラーと家族を支えるプログラム」であろう。長崎県大村市・愛媛県新居浜市(2022年12月開始)、東京都府中市(2023年4月開始)と協定を結び、2026年3月までの期間で自治体モデル事業を走らせつつ、地域でヤングケアラーと家族を支える民間団体への助成を並行して行っている。府中市では2024年3月に市独自の実態調査報告もまとまった。行政と民間財団が費用と知見を分担する、この分野では先駆的な官民連携である。

担い手の側では、元当事者らによるピアサポートを行うNPO法人(大阪の「ふうせんの会」など)、オンライン相談やコミュニティを運営する一般社団法人ヤングケアラー協会、学習支援や居場所づくりの中でケアを担う子どもに向き合う認定NPO法人カタリバのような団体が層を成しつつある。また2019年に運用が始まった休眠預金等活用制度は「子ども及び若者の支援」を優先分野の筆頭に掲げており、資金分配団体を通じた助成は、この領域の団体にとって数少ないまとまった資金源となりうる。とはいえ全体として各団体の事業規模は小さく、寄付市場の中でヤングケアラー支援は依然として周縁にある。

なぜ寄付が届きにくいのか

資金が集まりにくい理由は、同情の欠如ではなく構造にある。第一に、受益者が見えない。本人が名乗り出ない以上、支援団体は「笑顔の写真」も劇的な物語も提示しにくく、寄付者の共感回路に乗りにくい。第二に、成果の時間軸が長い。学業の継続、進路の選び直し、孤立の解消といった成果は数年単位でしか測れず、単年度の報告書には馴染まない。第三に、介入の「正解」がまだ定まっていない。家事支援か、レスパイトか、ピアサポートか、現金給付か——効果検証の蓄積はこれからである。

裏を返せば、ここは行政資金が最も苦手とする領域である。平等性に縛られる公費は「見つけた子どもだけを深く支える」ことができず、失敗の許されない予算は「正解のわからない試行」に投じられない。不確実性を引き受け、長い時間軸で待てる資金——それはまさに、民間のフィランソロピーの定義そのものである。

資金提供者にできる三つのこと

では、資産を持つ個人や財団は何に資金を投じるべきか。三つの方向を挙げたい。第一に、発見のインフラに出すことである。スクールソーシャルワーカーの増員、教員や介護職向けの研修、学校でのスクリーニング調査——地味だが、すべての支援はここから始まる。第二に、当事者団体の経常費を支えることである。ピアサポートの価値は人件費と継続性に宿る。使途を縛らない複数年の助成は、単発のプロジェクト助成の何倍も効く。第三に、評価とエビデンスに出すことである。実態調査や効果検証への資金は、それ自体が次の公費を動かすレバレッジとなる。埼玉の条例が国の調査を促し、調査が法改正を導いた経緯は、データが制度を動かすことの証左である。

この分野の団体は小規模であるがゆえに、数百万円の助成が組織の存続を左右し、数千万円が地域の支援モデルを丸ごと立ち上げる。遺贈寄付(遺贈による寄付の実務)の受け皿としても、金額の多寡より構造への理解が問われる領域だと言える。見えない子どもたちは、見ようとする意志と、それを支える静かな資金があって初めて、姿を現す。その意志を持つ者が最初の一人になることに、この分野のフィランソロピーの本質がある。

出典・参照

  • 厚生労働省・文部科学省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業、2021年公表)
  • 株式会社日本総合研究所「ヤングケアラーの実態に関する調査研究 報告書」(令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業、2022年3月)
  • こども家庭庁「ヤングケアラーについて」「ヤングケアラー支援の強化に係る法改正の経緯・施行について」(2024年)
  • こども家庭庁支援局虐待防止対策課「ヤングケアラー支援の現況」(令和7年度)
  • 福祉新聞「ヤングケアラーを初めて定義 改正子ども・若者育成支援推進法が成立」(2024年6月)
  • 埼玉県「埼玉県ケアラー支援条例」(2020年3月制定)
  • 一般社団法人ヤングケアラー協会「ケアラー・ヤングケアラー支援条例の一覧と解説」(2025年3月時点)
  • 日本財団「ヤングケアラーと家族を支えるプログラム」(自治体モデル事業・助成事業)
  • 内閣府・一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)「休眠預金等活用制度」

本稿は公開情報に基づく解説であり、特定の団体への寄付を勧誘するものではない。記載の数値・制度は執筆時点(2026年7月)で確認した公表資料に基づく。寄付・遺贈の実行にあたっては、最新の制度情報および専門家への確認を推奨する。