人が社会に差し出せるものは、金銭だけではない。もう一つ、誰にとっても有限で、決して他人に譲り渡せない資源がある——時間である。寄付が財布からの贈り物だとすれば、ボランティアは生涯という限られた時間からの贈り物だ。この二つの「贈与」は、しばしば別々に語られてきた。だが実際には、同じ一人の人間のなかで、どちらを、どれだけ差し出すかという選択として絡み合っている。時間を贈るという行為を軸に、日本のボランティアの現在地と、金銭の寄付との関係を静かに辿ってみたい。

この記事の要点
行動者率
ボランティア行動者率(過去1年)は2016年の26.0%から2021年には17.8%へと8.2ポイント低下した(社会生活基本調査)。新型コロナによる外出・接触の抑制が影響したとされる。
金銭の寄付
個人寄付総額は2020年に1兆2126億円(名目GDPの0.23%)、2024年には過去最高の2兆261億円へと拡大した(寄付白書2021・2025)。
プロボノ
職業上のスキルを差し出す「プロボノ」は、サービスグラントの法人化(2009年)を起点に広がり、累計6,800人超が参加、2,300件超の支援を担ってきた。
企業の休暇
ボランティア休暇制度を持つ企業は4.2%(令和4年就労条件総合調査)。1,000人以上規模では2割超に達する一方、中小では低い。
代替か補完か
時間の寄付と金銭の寄付は「代替」ではなく「補完」に近いとする研究が近年は優勢だが、効果は控えめで、結論は一様ではない。

二種類の贈り物——時間と金銭

寄付とボランティアは、経済学的にはよく似た性質を持つ。どちらも見返りを直接期待しない資源の移転であり、どちらも家計の「予算制約」のなかから捻出される。違いは、その原資にある。金銭の寄付は所得や資産から出ていくが、ボランティアは時間から出ていく。そして時間は、所得と違って貯めることも借りることもできず、万人に一日24時間と平等に配られ、そのぶん使い道の選択がより切実になる。

この「時間を贈る」という選択が、日本でどれだけ行われているのか。まずはその輪郭を、公的統計から確かめておきたい。

日本のボランティア行動者率——静かな後退

ボランティア活動の広がりを継続的に測ってきたのが、総務省統計局の社会生活基本調査である。5年ごとに実施されるこの調査は、過去1年間にボランティア活動を行ったかどうかを尋ね、その割合を「行動者率」として示す。2021年(令和3年)調査によれば、10歳以上の行動者率は17.8%。前回2016年の26.0%から、8.2ポイントの大幅な低下となった。総務省は、新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛や接触機会の抑制が、全ての年齢階級で行動者率を押し下げたと説明している。

もっとも、後退はコロナ禍だけの話ではない。2001年調査では行動者率は28.9%に達していた。長い目で見れば、日本のボランティア参加は2000年代の水準から緩やかに、そして2021年に急激に、縮んできたことになる。活動の種類別(2021年)に見ると、最も多いのは「まちづくりのための活動」で7.4%、次いで「子供を対象とした活動」4.6%、「安全な生活のための活動」3.1%、「自然や環境を守るための活動」3.0%と続く。地域の足元を支える活動が中心である点は、時代を通じて大きく変わっていない。

プロボノ——専門スキルという贈り物

時間の贈り方は、一様ではない。清掃や配食のように誰もが手を動かせる活動がある一方で、自らの職業上の専門性そのものを差し出す形もある。それが「プロボノ」だ。語源はラテン語の Pro Bono Publico、「公共善のために」を意味する。弁護士が無償で法律相談に応じる文化に始まり、現在ではデザイン、マーケティング、財務、IT、経営戦略など、あらゆる職能が対象に広がっている。

日本でプロボノを広めた代表的な担い手が、認定NPO法人サービスグラントである。2009年の法人化を起点に普及が進み、これまでに累計6,800人を超えるプロボノワーカーが参加し、NPOや地域団体に対して2,300件を超える支援を行ってきた。専門職にとってプロボノは、単なる無償労働ではない。日常の仕事で磨いた技能を、市場価値のはるかに高い形で社会に還元できる——いわば「時間あたりの贈与効率」が最も高い関与のひとつである。会計の専門家がNPOの財務基盤を整え、デザイナーが広報の見え方を変える。その一時間は、素人の一時間とは異なる重みを持つ。

企業のボランティア休暇——制度としての時間

個人が時間を贈ろうとするとき、最大の障壁はしばしば「仕事」である。ここで企業の制度が関わってくる。ボランティア休暇——従業員が社会貢献活動に参加するための特別休暇——を設ける企業は、着実に存在するが、まだ多数派ではない。厚生労働省の就労条件総合調査(令和4年)によれば、ボランティア休暇制度を持つ企業の割合は4.2%にとどまる。

ただし、この数字は企業規模によって大きく異なる。やや古い平成25年調査では、制度導入率は全体で2.8%だったが、従業員1,000人以上の大企業では23.0%、300〜999人で8.7%、100〜299人で3.5%、30〜99人では1.5%と、規模に強く相関していた。大企業ほど、時間の寄付を後押しする仕組みを内側に抱えている。経営者が自社の社会貢献を考えるとき、寄付金の拠出だけでなく、従業員の「時間を解放する」制度設計もまた、フィランソロピーの一手段になりうることを、この数字は示している。

代替か、補完か——研究が示すこと

ここで一つの問いが立つ。時間を贈る人は、そのぶん金銭の寄付を減らすのか。それとも、時間も金も両方多く差し出すのか。前者なら両者は「代替(substitutes)」、後者なら「補完(complements)」の関係にある。この問いは、慈善行動の研究で長く論じられてきた。

結論から言えば、証拠は一様ではないが、近年は「補完」寄りの知見が優勢である。オランダの長期パネルを用いた予算ベースの分析(Oxford Economic Papers, 2023)は、両者がわずかに代替的である可能性を示唆したが、その効果は統計的に有意ではなかった。一方、米国のフィールド実験では、ボランティア参加を促す働きかけが参加率を約10%高めると同時に、その後の寄付参加率を32%も押し上げたと報告されている。ボランティアが金銭の寄付への「入口(gateway)」として働くという、補完関係の証拠だ。時間と金の寄付頻度のあいだに正の相関(r≒0.38)を見出す研究もある。総じて、時間を贈ることは金銭の寄付を締め出すのではなく、むしろ社会的関与全体を厚くする方向に働きやすい。ただし、その効果は控えめであり、万人に当てはまる法則ではないことも、研究者は慎重に付け加えている。

時間を金銭に換算する

時間の贈与は、金銭の寄付と違って帳簿に載らない。しかし、その経済的価値を推計する試みは古くからある。代表的な手法は二つ。一つは、同じ作業を有償で雇ったら幾らかかるかで測る「置換費用(replacement cost)法」、もう一つは、その時間を働いていたら得られたはずの賃金で測る「機会費用(opportunity cost)法」である。米国の非営利連合体インディペンデント・セクターは、この考え方に基づきボランティア1時間の価値を毎年公表しており、2023年には30ドルを超える水準と推計している。

金額に置き換えると、時間の贈与がいかに大きな「見えざる寄付」であるかが浮かび上がる。日本の個人寄付総額は2020年に1兆2126億円(名目GDPの0.23%)、2024年には過去最高の2兆261億円へと拡大した(寄付白書2021・2025)。だが、そこにボランティアとして投じられた膨大な時間を金額換算して足し合わせれば、日本人の「贈与」の総量は、金銭統計が示すよりもはるかに大きい。時間は帳簿の外側で、静かに、しかし確実に社会へ流れ込んでいる。

富裕層にとっての「関与」——プロボノとNPO理事

資産を持つ人にとって、金銭の寄付は最も手早い貢献の形である。だが、小切手を切ることは、しばしば最も「関与の薄い」形でもある。ここに、時間を贈るという選択の独自の意味がある。経営者や専門職が自らの経験を差し出すプロボノ、あるいはNPO・財団の理事や評議員としての就任は、金銭では代えがたい深さで組織に関わる道を開く。理事は資金を出すだけでなく、戦略を吟味し、ガバナンスに責任を負い、自らのネットワークを団体のために動かす。それは寄付を「配分の決定」から「共同の営み」へと変える。

富裕層のフィランソロピーが成熟するとき、その関心はしばしば「幾ら贈るか」から「どう関わるか」へと移っていく。時間を贈るという選択は、その移行を体現している。有限で、譲渡できず、万人に平等なこの資源を、あえて他者のために使うこと——そこには、金額の多寡には還元できない一つの態度が表れる。ボランティアと寄付は、対立する二択ではない。むしろ、同じ意志が金銭と時間という二つの通路を通って社会へ向かう、その両輪なのだと言ってよい。

出典・参照

  • 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果」(2022年公表)、行動者率2021年17.8%・2016年26.0%・種類別行動者率ほか stat.go.jp
  • 総務省統計局「平成13年社会生活基本調査」(行動者率28.9%)ほか e-Stat
  • 労働政策研究・研修機構(JILPT)「2021年にボランティア活動をした人は約17%」ビジネス・レーバー・トレンド2023年12月号 jil.go.jp
  • 日本ファンドレイジング協会『寄付白書2021(Giving Japan 2021)』2020年個人寄付総額1兆2126億円(名目GDP比0.23%)jfra.jp
  • 日本ファンドレイジング協会『寄付白書2025』2024年個人寄付総額2兆261億円(過去最高)jfra.jp / prtimes.jp
  • 認定NPO法人サービスグラント「プロボノとは?」累計参加者・支援件数 servicegrant.or.jp
  • 厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」「平成25年就労条件総合調査」ボランティア休暇制度導入企業割合 mhlw.go.jp
  • Bekkers, R. ほか「Substitutes or complements: a budget-based analysis of the relationship between donating and volunteering」Oxford Economic Papers 75(4), 2023
  • 米国フィールド実験・PSID分析による時間と金銭の寄付の補完関係に関する研究(NBER・Marketing Letters ほか、2013〜2026年)
  • Independent Sector「Value of Volunteer Time」(2023年、1時間あたり約33.49ドル)independentsector.org

本稿は公開情報にもとづく解説であり、特定の活動・団体への参加を勧誘・推奨するものではありません。統計値・推計額は各出典の公表時点のもので、調査回・定義により差異があり、最新値と異なる場合があります。研究知見は現時点の到達点であり、確定した結論ではありません。詳細は各一次資料をご確認ください。