2026年6月、UNHCRが公表した年次統計報告「グローバル・トレンズ」は、世界の強制移動人口が10年ぶりに減少へ転じたことを伝えた。2025年末時点で1億1,780万人——なお歴史的な高水準にあるこの数字の裏側で、国際支援を支えてきた公的資金は急速に細っている。支援の需要が消えないまま資金の供給構造だけが変わるとき、民間の寄付は難民支援の持続性を左右する変数となる。世界と日本、双方の受け入れと支援の構造を、確認できる数字に即して整理する。
- 世界の強制移動人口
- 2025年末時点で1億1,780万人。10年ぶりの減少に転じた(UNHCR「グローバル・トレンズ」2025年版、2026年6月公表)。
- 受け入れの偏在
- 難民等の68%を低・中所得国が受け入れる。トルコは240万人、イランは170万人を受け入れている(2025年)。
- UNHCRの資金危機
- 2025年の必要資金106億ドルに対し、年末時点の利用可能資金は約39億ドルの見込みと前年比約25%減。約5,000人の職員が削減された。
- 日本の難民認定
- 2025年の難民認定は187人、補完的保護は474人、人道配慮による在留許可は525人(出入国在留管理庁、2026年3月発表)。
- 日本の民間寄付
- 国連UNHCR協会の2024年の寄付総額は95億6,572万円。約88%にあたる83億7,200万円がUNHCR本部へ送金された。
10年ぶりの減少が意味するもの
UNHCRの「グローバル・トレンズ」2025年版によれば、紛争や迫害により故郷を追われた人は2025年末時点で1億1,780万人となり、世界の強制移動人口は10年ぶりに減少した。内訳を見ると、国内避難民は6,870万人で前年末比7%減、難民数も前年比で約3%減少している。減少の主因は帰還である。2025年にはアサド政権崩壊後のシリアへ約130万人が国外から帰還したほか、アフガニスタンやスーダンへの帰還も増加した。ただしUNHCRは、帰還先の治安や生計手段がなお不安定であること、そして難民の70%が5年以上にわたる長期化した避難状況に置かれていることを併せて指摘している。数字の減少は問題の解決を意味しない。むしろ帰還者の生活再建という、新たな資金需要の始まりでもある。
受け入れの地理——負担は低・中所得国に集中する
受け入れの構造にも目を向けたい。同報告によれば、難民および国際保護を必要とする人々の68%は低・中所得国が受け入れている。2025年の主要受け入れ国はコロンビア、ドイツ、トルコ、ウガンダ、イラン、チャド、パキスタンであり、トルコは240万人、イランは170万人を受け入れる。先進国の政治的議論において難民問題はしばしば「流入」の文脈で語られるが、実際の負担の大半は、資源の限られた国々が引き受けているのが現実である。寄付の宛先を考えるうえで、支援の現場の多くが援助資金の乏しい地域にあるという事実は、出発点となる認識だろう。
公的資金の後退という構造転換
2025年、この分野の資金構造は転機を迎えた。UNHCRの2025年の必要資金は106億ドルであったが、年央時点での充足率は23%にとどまり、年末時点の利用可能資金は約39億ドルと、前年比で約25%減となる見通しが示された。主要ドナー国の拠出削減を受け、UNHCRは職員約5,000人を削減し、世界185の事務所を縮小・再編した。UNHCR自身の推計では、この削減により約1,160万人が直接支援を失うおそれがある。公的資金の空白を民間寄付だけで埋められる規模ではない。しかし、使途に柔軟性があり、政治情勢に左右されにくい民間資金の相対的な価値は、この構造転換のなかで確実に高まっている。国際機関側も民間フィランソロピーへの依存度を高めており、大口寄付者にとっては関与の余地が広がる局面にある。
日本の制度——難民認定と補完的保護の二層構造
日本に目を転じる。出入国在留管理庁の発表によれば、2024年(令和6年)の難民認定申請者は12,373人、難民認定者は190人であった。加えて、補完的保護対象者として1,616人(難民不認定ながら補完的保護と認定された45人が別途ある)、人道的配慮による在留許可が335人あり、在留を認められた外国人は計2,186人となる。2025年(令和7年)は申請者11,298人に対し、難民認定187人、補完的保護474人、人道配慮525人の計1,186人であった。処理数は14,832人と前年から約77%増加している。2023年に施行された補完的保護制度の認定は、ウクライナからの避難民が中心を占めてきた。認定数は2桁から3桁へと増えたものの、年間1万人を超える申請者数との落差は大きく、申請から結果までの期間の長さと、その間の生活基盤の脆弱さが、国内支援の実務上の焦点であり続けている。
国内の現場——収入の9割以上を寄付が支えるNPO
制度の隙間を埋めているのが民間の支援団体である。国内最大級の難民支援NPOである認定NPO法人難民支援協会の2024年度年次報告書(対象期間2024年7月〜2025年6月)によれば、同年度の支援人数・件数はともに過去最多を更新した。難民申請期間の長期化と公的な生活支援の不足を背景に、住居や医療に関する対応が多くを占めたという。特筆すべきはその財政構造である。同団体の収入の9割以上は寄付で賄われており、2024年度は約2,500人が継続寄付者として、また130を超える企業・団体が活動を支えた。公的助成に乏しいこの分野では、民間寄付が文字どおり活動の存立基盤となっている。認定NPO法人への寄付は寄付金控除の対象であり、税制面の設計も整っている。
日本からの寄付の回路——国連UNHCR協会という導管
海外の難民支援に日本から資金を届ける主要な回路が、UNHCRの公式支援窓口である国連UNHCR協会である。同協会の会計報告によれば、2024年に寄せられた寄付は総額95億6,572万円に達し、うち約88%にあたる83億7,200万円がUNHCR本部へ送金された。基盤となっているのは個人の継続寄付であり、同協会への寄付も寄付金控除の対象となる。国際機関への送金型の寄付は、緊急事態への即応力と世界規模の配分機能に強みがある。一方、国内NPOへの寄付は、日本の制度の隙間で困窮する目の前の申請者を支える。両者は代替関係ではなく補完関係にあり、ポートフォリオとして組み合わせる発想が有効だろう。
構造を見て、資金を置く
強制移動人口の減少局面は、支援の必要が薄れた局面ではない。帰還者の再定住、長期化した避難生活、そして公的資金の後退——構造を見れば、民間資金が果たすべき役割はむしろ輪郭を増している。寄付を検討する立場からは、第一に資金の流れの透明性(会計報告と送金比率)、第二に支援の性質(海外の緊急・復興支援か、国内の生活・法的支援か)、第三に関与の形(単発か、継続か、遺贈か)を軸に整理するとよい。相続財産の一部を難民支援に充てる遺贈寄付は、長期化する課題に対して時間軸の長い資金を提供する手段として、この分野でも選択肢となる。数字は毎年更新される。しかし受け入れの偏在と資金の逼迫という構造は、当面変わらない。だからこそ、構造を理解したうえで置かれる資金の価値は大きい。
- 財団・助成団体データベース——難民・人道支援分野を含む国内の財団・助成団体を検索できる。寄付先・連携先の比較検討に。
- サービス一覧——寄付戦略の設計、財団設立、遺贈の相談など、フィランソロピー実務の支援メニューを掲載している。
- 動物福祉への寄付——殺処分ゼロと、その先の設計——関連論考。
- 芸術文化への寄付——アーツカウンシルと「アームズ・レングス」の思想——関連論考。
- 遺贈寄付の現在地——人生の最後に、意志を手渡す——関連論考。
出典・参照
- UNHCR「Global Trends: Forced Displacement in 2025」(2026年6月公表、unhcr.org)
- UN News「Refugee numbers drop for first time in a decade, but millions remain trapped」(2026年6月、news.un.org)
- UNHCR「On the brink: The devastating toll of aid cuts on people forced to flee」および資金状況に関する発表(2025年、unhcr.org)
- 国連UNHCR協会「活動・会計報告」(2024年、japanforunhcr.org)
- 出入国在留管理庁「令和6年における難民認定者数等について」(2025年3月、moj.go.jp)
- 出入国在留管理庁「令和7年における難民認定者数等について」(2026年3月、moj.go.jp)
- 認定NPO法人難民支援協会「2024年度 年次報告書」(2025年、refugee.or.jp)
本記事は公開情報に基づく一般的な解説であり、特定の団体への寄付の勧誘や、税務・法務上の助言を行うものではない。数値は各出典の公表時点のものであり、最新の情報は各機関の一次資料を確認されたい。寄付の実行にあたっては、税理士等の専門家への相談を推奨する。