刑務所の門を出る日、迎える人も、帰る家も、明日からの仕事もない——そのような状態で社会に戻る人が、いまも少なくない。日本の刑事政策のもっとも重い課題は、施設の中ではなく、その「出口」にある。刑法犯検挙人員の半数近くを再犯者が占める一方で、住まいと仕事と伴走者があれば再犯が確実に減ることを、統計は静かに示している。更生保護という地味な領域こそ、民間資金がもっとも手堅く社会的リターンを生む投資先のひとつである。
- 再犯者率は47.0%
- 令和5年の刑法犯検挙人員に占める再犯者の割合は47.0%。3年連続で低下したが、なお半数近い(法務省『令和6年版犯罪白書』)。
- 「出口」で再入率が2倍以上違う
- 令和元年出所受刑者の2年以内再入率は、満期釈放者等23.3%に対し仮釈放者10.2%(法務省『犯罪白書』)。
- 再入者の72.3%が無職
- 令和3年の刑務所再入者のうち72.3%は再犯時に無職。無職者の再犯率は有職者の約3倍とされる(法務省)。
- 更生保護施設はすべて民間
- 全国102施設(2024年4月現在)、収容定員計2,403人。うち99施設を更生保護法人が運営する(法務省・全国更生保護法人連盟)。
- 保護司は定数を約6,000人下回る
- 令和6年の保護司は46,584人(定数52,500人)、平均年齢65.4歳。60歳以上が約8割を占める(法務省・全国保護司連盟)。
検挙人員の半数が「再犯者」であるという事実
法務省法務総合研究所の『令和6年版犯罪白書』によれば、令和5年の刑法犯検挙人員に占める再犯者の割合、いわゆる再犯者率は47.0%であった。前年より0.9ポイント低下し、令和3年から3年連続の改善ではあるが、検挙される人のほぼ二人に一人が過去にも検挙歴を持つという構図は変わらない。誤解のないよう付言すれば、これは「罪を犯した人の半数が再犯する」という意味ではない。犯罪から離れていく人が多数である一方、少数の人が生活基盤を欠いたまま犯罪を繰り返し、統計上の大きな割合を占める——それがこの数字の実像である。だとすれば、政策的にも寄付の観点からも、力点を置くべき場所は明確だ。繰り返しの連鎖が生じる地点、すなわち矯正施設の「出口」である。
「出口」の違いが再入率を分ける
同じ刑務所を出ても、その後の経路は釈放の形態によって大きく分かれる。『犯罪白書』によれば、令和元年の出所受刑者の2年以内再入率は、刑期満了で出所した満期釈放者等が23.3%であるのに対し、保護観察が付く仮釈放者は10.2%と、2倍以上の開きがある。また令和元年出所者全体の5年以内再入率は34.1%であった(『令和6年版犯罪白書』)。仮釈放者には保護観察官と保護司による指導・支援があり、帰住先の調整が済んでいる。つまりこの差は、本人の資質の差である以上に、「出口」に用意された支援の差を映している。帰る場所がないために仮釈放が許可されず、支援のないまま満期で出所する——この悪循環を断つことが、再犯防止のいわば急所である。
住まい——全国102の更生保護施設という民間インフラ
その急所を支えてきたのが更生保護施設である。頼るべき親族や住居のない出所者等を一定期間受け入れ、宿泊と食事を提供しながら、生活指導や就労支援、酒害・薬物依存に関する教育プログラム等を行う。法務省と全国更生保護法人連盟の資料によれば、2024年4月現在で全国に102施設、収容定員は計2,403人。特筆すべきは、その全てが民間の非営利団体により運営され、うち99施設は法務大臣の認可を受けた更生保護法人が担っている点である。明治期の慈善事業に淵源を持つこの分野は、日本でもっとも歴史の長い民間フィランソロピーの一つでもある。運営費の多くは国からの委託費で賄われるが、施設の老朽化への対応、専門職員の処遇、退所後のフォローアップなどは委託費だけでは十分に手当てされにくく、寄付が実質的な意味を持つ領域が広い。
仕事——2万5,000の登録と、実雇用との距離
住まいの次は仕事である。法務省によれば、令和3年の刑務所再入者のうち72.3%は再犯時に無職であり、無職者の再犯率は有職者の約3倍に上るとされる。就労はそれ自体が収入と生活リズムと居場所を与え、再犯リスクを大きく下げる。この認識のもと、犯罪や非行をした人を雇用し立ち直りを支える民間事業主を「協力雇用主」として登録する制度があり、その数は全国で約2万5,000に達する(法務省)。ただし、実際に雇用している事業主は、令和2年10月時点で1,391社、被雇用者は1,959人にとどまった。登録数と実雇用の間に横たわるこの大きな差は、企業の意欲だけでは埋まらない現実——受け入れノウハウの不足、職場定着の難しさ、周囲の理解——を示している。登録を増やす段階から、雇用が続くことを支える段階へ。課題はすでに移っている。
人——保護司制度は持続可能か
更生保護のもう一つの柱は、人である。保護観察対象者と面接を重ね、地域での立ち直りに伴走する保護司は、法務大臣が委嘱する非常勤の国家公務員でありながら、給与は支給されない実質的なボランティアである。保護司法はその定数を52,500人と定めるが、令和6年の実人数は46,584人と約6,000人下回り、前年から減少に転じた。平均年齢は65.4歳、60歳以上が全体の約8割を占める(法務省・全国保護司連盟)。地域社会の変容とともに担い手の確保は年々難しくなり、法務省は令和5年に「持続可能な保護司制度の確立に向けた検討会」を設置、令和6年3月に中間取りまとめを行った。約100年続いてきた「地域の善意」に依存する仕組みは、いま構造的な転換点にある。研修の充実、活動拠点の整備、現役世代が参加しやすい環境づくり——制度の外側から民間資金が支えられる余地は決して小さくない。
民間の実践——職親プロジェクトが示したもの
民間主導の取り組みとして注目されるのが、日本財団の「職親(しょくしん)プロジェクト」である。2013年2月、関西の企業7社とともに始まったこの事業は、刑務所出所者や少年院出院者を企業が「職の親」として受け入れ、就労と教育、住居、仲間づくりまでを一体で支えるモデルを掲げる。参加企業は2025年6月時点で約820社まで広がった(日本財団職親プロジェクト)。重要なのは、単なる就職斡旋ではなく、採用後の定着支援——生活面の相談、資格取得の奨学支援、企業同士の情報交換——に力点を置いてきた点である。協力雇用主制度が直面する「登録と実雇用の差」に対し、民間の柔軟さで定着のノウハウを蓄積し、官民連携の更生支援モデルを示した意義は大きい。
「出口」への投資はなぜ合理的か
最後に、費用の視点を確認したい。法務省資料によれば、刑事施設の被収容者一人一日当たりの直接的な収容費用は2,054円(令和2年度予算額)。これに職員人件費や施設費を含む矯正関係予算全体を収容人員で割ると、一人当たり年間約300万円になるとの試算もある(中島隆信『刑務所の経済学』)。加えて、再犯には被害者の損害、捜査・裁判の費用、本人が納税者から被収容者に転じる逸失も伴う。一件の再犯を防ぐことの社会的価値は、支援の費用をはるかに上回るというのがエビデンスの示すところである。更生保護への寄付は、同情ではなく算術に基づく選択であり得る。何よりこの分野は、被害を受けた人の痛みへの想像力と、罪を犯した人がやり直せる社会への意志とが、矛盾なく両立する場所である。派手さのない「出口」の営みにこそ、成熟した資金の出番がある。遺贈寄付を含め、長期の視点で更生保護法人やNPOを支えることを、選択肢の一つとして検討する価値は十分にある。
- 財団・助成団体データベース——更生保護・就労支援分野を含む助成団体を、財務データとあわせて検索できる。
- サービス一覧——寄付先の調査や遺贈寄付の設計など、当サイトが提供する支援メニューの一覧。
- 孤独・孤立対策と民間支援——「つながり」への投資——関連論考。
- 動物福祉への寄付——殺処分ゼロと、その先の設計——関連論考。
- 芸術文化への寄付——アーツカウンシルと「アームズ・レングス」の思想——関連論考。
出典・参照
- 法務省法務総合研究所『令和6年版 犯罪白書』(再犯者率47.0%〈令和5年〉、2年以内再入率、5年以内再入率34.1%〈令和元年出所者〉、hakusyo1.moj.go.jp)
- 法務省保護局「更生保護施設・自立準備ホーム」(moj.go.jp)
- 全国更生保護法人連盟「更生保護施設の概況」(102施設・定員2,403人、2024年4月現在、zenkouren-net.jp)
- 全国保護司連盟「統計で見る保護司」(46,584人・平均年齢65.4歳、令和6年、kouseihogo-net.jp)
- 法務省「数字で見る保護司制度」「持続可能な保護司制度の確立に向けた検討会」関係資料(moj.go.jp)
- 法務省保護局「協力雇用主」(登録約2万5,000、実雇用1,391社・1,959人〈令和2年10月〉、moj.go.jp)
- 法務省「再犯防止に向けた取組について」(再入者の72.3%が再犯時無職〈令和3年〉、無職者の再犯率は有職者の約3倍、moj.go.jp)
- 日本財団 職親プロジェクト(2013年2月開始、参加企業約820社〈2025年6月〉、shoku-shin.jp)
- 参議院「立法と調査」No.424「減少・高齢化する保護司」(2020年、sangiin.go.jp)
- 中島隆信『刑務所の経済学』(収容コストに関する試算)/法務省「矯正業務」行政事業レビュー資料(一人一日当たり収容費用2,054円、令和2年度)
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