孤独は、貧困や疾病のように外からは見えない。だからこそ長らく個人の心情の問題として扱われ、政策と寄付の双方から取りこぼされてきた。その景色が変わりつつある。2024年4月、孤独・孤立対策推進法が施行され、孤独・孤立は法律上「社会全体の課題」と位置づけられた。内閣府の全国調査は、約4割の人が何らかの孤独感を抱えるという事実を毎年更新している。一方で、深夜の電話やチャットで実際に人を受けとめているのは、圧倒的に民間の団体である。制度・統計・現場の三点から、この分野への民間資金の関わり方を考える。

この記事の要点
法制度
孤独・孤立対策推進法が2023年に成立し、2024年4月1日に施行。孤独・孤立対策推進本部の設置と、自治体による地域協議会設置の努力義務を定めた。
孤独感の実態
孤独感が「しばしばある・常にある」は4.3%、「時々ある」「たまにある」を含めると約4割(内閣府「人々のつながりに関する基礎調査」令和6年調査、2025年4月公表)。
世代の偏り
孤独感が「しばしばある・常にある」割合は20歳代7.4%、30歳代6.0%と若年層で高い(同調査)。高齢者の問題という通念とは異なる。
官民連携
孤独・孤立対策官民連携プラットフォームが2022年2月に設置され、2026年4月1日時点で687団体が参画(内閣府)。
民間相談の規模
24時間の電話相談「よりそいホットライン」は2014年度に電話で約29万件に対応(平成28年版厚生労働白書)。チャット相談「あなたのいばしょ」は2024年5月に累計相談100万件を突破(団体公表)。

「4割」という静かな数字

内閣府の「人々のつながりに関する基礎調査」(孤独・孤立の実態把握に関する全国調査)は、2021年12月の初回以来、毎年実施されている。令和6年調査(2024年12月実施、2025年4月公表、有効回答10,876件)によれば、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人は4.3%、「時々ある」15.4%、「たまにある」19.6%——合計すると約4割が何らかの孤独感を抱えている。この水準は調査開始以来ほぼ変わらない。注目すべきは分布である。「しばしばある・常にある」の割合は20歳代で7.4%、30歳代で6.0%と、70歳代(2.5%)や80歳以上(2.8%)を大きく上回る。孤独は老いの問題であるという通念は、データによって覆されている。また、現在の孤独感に影響した出来事の最多は「家族との死別」(孤独感が比較的高い層の24.6%)で、「一人暮らし」(18.8%)、転職・離職等が続く。孤独は性格ではなく、人生の移行期に訪れる状態なのである。

数字が示すもう一つの事実——支援は届いていない

同調査には、支援者にとってより重い数字がある。日常生活に不安や悩みがあると答えた人のうち、行政機関やNPO等からの支援を「受けていない」人は85.1%に上る。その理由の最多は「支援が必要ではないため」(62.6%)だが、裏を返せば、残る人々の相当部分は、必要を感じながら制度に接続していない。同居していない家族や友人と直接会って話すことが「全くない」人も9.3%存在する。孤独・孤立対策の核心は、新しい制度をつくること以上に、既にある支援と人との間の「最初の接点」をいかに設計するかにある。

孤独・孤立対策推進法は何を変えたのか

2023年の通常国会で成立した孤独・孤立対策推進法は、2024年4月1日に施行された。この法律は孤独・孤立を「社会全体の課題」と明記し、当事者が「孤独・孤立の状態から脱却して社会生活を円滑に営むことができるようにする」ことを目標に掲げる。実務上の柱は、内閣府に特別の機関として孤独・孤立対策推進本部を置き重点計画を作成すること、自治体に孤独・孤立対策地域協議会の設置を努力義務として課したこと、支援人材の確保・養成やNPO等への支援を国・自治体の責務に含めたことの三つである。罰則や給付を伴う法律ではない。しかし「孤独は自己責任ではなく社会の構造問題である」という認識を立法として確定させ、予防的施策への公費投入と民間団体への委託・補助の法的な足場を整えた意味は小さくない。

先行した英国——担当大臣と「つながる社会」戦略

この分野で日本がしばしば参照するのが英国である。2016年に殺害された下院議員の遺志を継いだ超党派の委員会は、2017年12月の最終報告で孤独の健康影響と経済的損失を整理し、担当大臣の設置を提言した。これを受けて英国政府は2018年1月、世界で初めて「孤独担当大臣」を置き、同年10月には国家戦略「A connected society(つながる社会)」を公表した。孤独を公衆衛生上のリスクとして測定し、医師が地域活動への参加を処方する「社会的処方」を制度に組み込んだ点が特徴である。日本も2021年2月に孤独・孤立対策担当大臣を置いた。両国に共通するのは、政府が測定と旗振りを担い、つながりの供給は市民社会に委ねるという分業の構図である。

電話とチャットの最前線

その市民社会の最前線が、電話・SNS相談である。東日本大震災を機に2011年度に始まった「よりそいホットライン」(一般社団法人社会的包摂サポートセンター運営、厚生労働省補助事業)は、24時間365日、生活困窮からDV・性暴力、自死念慮、外国語相談までを無料で受けとめる包括的窓口であり、平成28年版厚生労働白書によれば2014年度には電話で約29万件の相談に対応した。回線がつながらないほどの着信が常態であることも、かねて指摘されてきた。一方、若年層の受け皿として存在感を増すのがチャット相談である。2020年3月に開設されたNPO法人の「あなたのいばしょ」は24時間365日の匿名チャット窓口を運営し、団体の公表によれば2024年5月に累計相談件数が100万件を突破、相談者の約7割を29歳以下が占める。電話という行為自体の心理的障壁が高い世代にとって、テキストで「死にたい」と打てる場所の存在は決定的である。いずれの窓口も、相談員の確保・研修という恒常的な人件費が生命線であり、単年度の補助金では賄いきれない構造的な資金需要を抱えている。

官民連携プラットフォームという回路

制度と現場をつなぐ結節点として、2022年2月に「孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」が設置された。NPO、社会福祉法人、企業、自治体などが参画し、2026年4月1日時点の会員は687団体に達する(内閣府公表の会員一覧)。分科会での知見共有や、支援情報をまとめた政府サイト「あなたはひとりじゃない」との接続など、個々の団体では持ち得ない基盤を提供する試みであり、地方版の整備も進む。寄付者の視点から見れば、この仕組みは支援先を探す一次リストとしても機能する。どの団体が国の連携枠組みに参画しているかは、公開情報から確認できるからである。

「つながり」への投資——寄付者への示唆

孤独・孤立対策への寄付は、成果が見えにくい。救われた命や防がれた孤立は、統計に「起きなかったこと」としてしか現れないからである。それでも、この分野に民間資金が向かうべき理由は明確である。第一に、相談窓口の逼迫は恒常的であり、電話・チャットの応答率を規定するのは相談員の数、すなわち経常的な資金である。使途を縛らない継続寄付が最も効く領域といえる。第二に、若年層に孤独感が偏在する以上、SNS相談やメタバース上の居場所など新しい接点への投資は、既存の公費が届きにくい隙間を埋める。第三に、死別が孤独の最大の契機であるという調査結果は、遺族支援やグリーフケア、そして自らの資産を次のつながりに手渡す遺贈寄付(遺贈寄付の基礎を参照)とこの主題との深い連関を示している。孤独・孤立対策とは、要するに、人が人に出会い直すための回路を社会に増やすことである。法は骨格を与えた。統計は所在を示した。回路そのものを太くする資金は、なお民間の意思に委ねられている。

出典・参照

  • 内閣府「孤独・孤立対策推進法」解説ページ(2024年4月1日施行、cao.go.jp)および e-Gov法令検索「孤独・孤立対策推進法」(令和5年法律第45号)
  • 内閣府孤独・孤立対策推進室「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)調査結果のポイント」(2024年12月実施・2025年4月25日公表、cao.go.jp)
  • 内閣府「国の孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」会員一覧(2026年4月1日時点・687団体、cao.go.jp)および政府サイト「あなたはひとりじゃない」(notalone-cao.go.jp)
  • 英国政府「A connected society: a strategy for tackling loneliness」(2018年10月)、孤独問題委員会最終報告(2017年12月)に関する各種紹介資料(日経BP 2018年3月ほか)
  • 厚生労働省「平成28年版厚生労働白書」コラム「よりそいホットラインについて」(2014年度の電話対応約29万件、mhlw.go.jp)
  • 一般社団法人社会的包摂サポートセンター「よりそいホットライン」公式サイト・事業報告書(since2011.net)
  • NPO法人あなたのいばしょ 公式サイトおよび公式note「あなたのいばしょ5年間の歩み」(累計相談100万件突破・2024年5月、talkme.jp)

本稿の数値は各機関・団体の公表時点のものであり、その後更新される場合がある。相談実績の集計方法は団体により異なるため、単純な比較はできない。寄付・助成の判断にあたっては、各団体の最新の公表資料を直接ご確認いただきたい。本稿は特定の団体への寄付を勧誘するものではない。