公益財団は、毎年の収入を毎年ほぼ使い切ることを長らく求められてきた。「収支相償」と呼ばれるこの原則は、公益への還元を担保する仕組みであると同時に、財団が腰を据えて大きな事業を構想することを難しくしてきた。2024年、この原則を含む財務規律が約16年ぶりに見直され、2025年4月に施行された。何がどう変わり、財団の運営と寄付者にとって何を意味するのか。内閣府の一次情報に沿って静かに整理しておきたい。

この記事の要点
改正法の成立
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律が2024年(令和6年)に国会で成立。2025年(令和7年)4月1日に施行された。
収支相償の見直し
費用を超える収入を得てはならないとする収支相償原則を改め、内閣府令で定める中期的な期間で収支の均衡を図る趣旨を明確化した。
使途特定の柔軟化
将来の公益目的事業を充実させるための資金の積立てを「費用とみなす」こととし、黒字をため込みではなく将来投資として位置づけられるようにした。
遊休財産規制の緩和
「遊休財産」を「使途不特定財産」に改称。災害等に備える公益目的事業継続予備財産を保有制限の算定対象から除外した。
手続と透明性
収益事業等の内容変更を認定事項から届出事項へ簡素化する一方、3区分経理の原則義務化や外部理事・監事の導入などで透明性を強化した。

そもそも収支相償とは何か

公益法人は、公益認定を受けることで税制上の優遇を得る。その見返りとして、集めた資金を公益に確実に還元することが制度上求められてきた。その中核をなしてきたのが「収支相償原則」である。改正前の制度は、公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を超えてはならない、という考え方を採っていた。平たく言えば、公益事業で稼いだお金は、その事業のために使い切りなさい、という発想である。

この原則は、公益法人が優遇を受けながら内部に資金を過度にため込むことを防ぐ狙いを持っていた。だが実務では、これがしばしば足かせとなった。ある年に寄付が集中しても、それを翌年以降のより大きな事業へ計画的に振り向けようとすると、単年度で収支が償い切れない——すなわち「黒字」になる——ことが問題視されかねない。結果として、財団は年度ごとの帳尻合わせに神経を使い、複数年にわたる腰の据わった事業設計をためらう傾向があった。潜在力を持ちながら発揮しにくい、という声の根には、この単年度主義があった。

2024年改正の全体像——三つの柱

内閣府は今回の改正の趣旨を、公益法人の潜在力を最大限に発揮できるようにすることに置く。改正法の概要は、その内容を大きく三つの柱に整理している。第一に、財務規律の柔軟化・明確化。第二に、行政手続の簡素化・合理化。第三に、自律的なガバナンスの充実と透明性の向上である。

この三本柱は、それぞれ独立しているわけではない。財務規律をゆるめ、手続を軽くして法人の自律的な経営判断を尊重する一方で、その自由に見合うだけの透明性とガバナンスを求める——アクセルとブレーキを同時に整える設計になっている。内閣府はこの改正が公益法人を「より使いやすい制度へと見直し、民間公益の活性化を図る」ものだと位置づける。改正法の背景には、日本の公益法人が約9,700法人、職員数約29万人、公益目的事業費が年間約5兆円、総資産約31兆円という相当の規模を持ちながら、現行制度の下ではその力を発揮しにくいという認識があった。

収支相償から「中期的収支均衡」へ

財務規律の柱の中心が、収支相償原則の見直しである。改正法は、費用を超える収入を得てはならないとする従来の建付けを改め、内閣府令で定める中期的な期間において収支の均衡を図る趣旨を明確化した。単年度ごとに帳尻を合わせるのではなく、複数年をひとまとまりとして収支のバランスを見ればよい、という考え方への転換である。

この変化の意味は小さくない。ある年に大口の寄付や運用益が入っても、それを直ちに使い切る必要はなくなる。数年先に構想する大型の助成プログラムや施設整備に向けて、資金を計画的に積み上げていくことが、制度上はっきりと許容される。財団にとっては、資金の「時間軸」を長く取れるようになる。単年度の黒字を過度に恐れることなく、中期の視野で事業を設計できることこそ、今回の改正が財団運営にもたらす最も本質的な変化だと言ってよい。

使途特定の柔軟化——積立てを「費用とみなす」

中期的な収支均衡を実効あるものにするのが、資金の積立てに関する扱いの見直しである。改正法は、将来の公益目的事業を充実させるための資金を規定し、その積立てを「費用とみなす」こととした。会計上、積み立てた分が費用として扱われるため、その積立ては収支相償の観点から「使い切っていない黒字」とは見なされない。

これは、余った資金の意味づけを変える工夫である。従来であれば「使い残し」と映りかねなかった資金が、明確な目的を持った「将来への投資」として位置づけられる。財団は、いま実施する事業と、数年後に実施する事業とを、ひとつの資金計画のなかで連続的に考えられるようになる。使途を特定した資金の運用に幅が生まれることで、財団の裁量——自律的な経営判断——が広がる。制度が財団を信頼し、判断を委ねる方向へ一歩踏み出したと理解できる。

遊休財産規制の見直し——名は体を表す

財務規律のもう一つの論点が、遊休財産規制である。公益法人には、使途の定まっていない財産を過大に保有しないよう、保有上限の規制が課されてきた。今回の改正は、この「遊休財産」という名称を「使途不特定財産」へと改めた。遊休という語が「無駄に遊んでいる財産」という誤解を招きやすかったためで、使途が特定されている財産は規制の対象から外れることを、名称の面からも明確にする狙いがある。

実質面でも緩和が図られた。改正法は、災害等の予見し難い事由に対応して公益目的事業を継続するために必要な「公益目的事業継続予備財産」を、保有制限の算定対象から除外した。近年の災害の頻発を踏まえ、いざというときに事業を止めないための備えを、規制上のマイナス要因として扱わないようにするものである。ただし、この予備財産を保有する場合には、その理由を公表することが義務づけられた。備えを認める代わりに、なぜその備えが必要なのかを外部に説明する——ここでも柔軟化と透明性が対で組み合わされている。

行政手続の簡素化と、透明性の強化

第二の柱である行政手続の簡素化では、収益事業等の内容の変更が、これまでの「認定事項」から「届出事項」へと見直された。事業の公益性に実質的な影響を与えず、問題が生じても事後の監督で是正しうると考えられる変更については、事前の変更認定を要さず届出で足りることとされた。行政庁の事前審査を待たずに機動的に事業を展開できるようになり、財団の意思決定のスピードが上がる。

その自由に釣り合うのが、第三の柱の透明性・ガバナンスの強化である。改正法は、わかりやすい財務情報の開示のため、公益目的事業・収益事業等・法人運営の3区分経理を原則として義務づけた。公益認定の基準には、理事・監事間の特別利害関係の排除と、外部理事・監事の導入が加えられた。さらに、公益法人の責務としてガバナンスの充実や透明性の向上に努めるべき旨が定められ、これを支える国の責務も規定された。財務規律をゆるめ手続を軽くする一方で、法人の内側の統治と外への説明責任を厚くする——改正全体を貫く均衡の思想が、ここに集約されている。

財団運営と寄付者にとっての意味

財団を運営する側にとって、今回の改正は「時間の使い方」を変えるものである。単年度の収支に縛られず、中期の視野で資金を設計できるようになったことで、大型の助成や継続的な事業に踏み出しやすくなる。積立てを将来投資として位置づけられ、災害等への備えも規制上不利に扱われない。財団は、より腰を据えた構想を描けるようになった。一方で、3区分経理や外部役員、開示の充実といった負担も増える。自由の拡大は、説明責任の拡大と一体である。

寄付者の側から見れば、この改正は寄付先の財団を見る目を少し変える。中期の視野で資金を持てるようになった財団は、単年度で使い切る財団よりも大きな事業を担いうる。だからこそ、その財団がため込みではなく将来投資として資金を保有しているのか、なぜその備えが必要なのかを、開示情報から読み取ることの重要性が増す。透明性の強化は、まさに寄付者がそうした判断を下すための材料を増やす措置でもある。どの財団に想いを託すかを考えるうえで、公表される財務情報とガバナンスの姿勢は、これまで以上に意味を持つ。国内の財団の広がりは団体データベースで確かめられ、制度を踏まえた設計に伴走が必要であればフィランソロピストアドバイザリーで相談できる。

出典・参照

  • 内閣府「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律案の概要【公益法人法 改正法案】」(第213回国会提出資料)
  • 内閣府「『公益法人制度』が令和7年4月から変わります」(2025年3月7日、内閣府New Wave)
  • 内閣府 公益法人information「公益法人等制度改革特集ページ」
  • 内閣府「令和6年『公益法人の概況及び公益認定等委員会の活動報告』」(法人数・職員数・事業費・総資産等の概況)

本稿は2026年7月時点で確認できる一次情報に基づく一般的な解説であり、個別の法務・税務・会計判断を示すものではない。中期的収支均衡の対象期間など具体的な取扱いは、内閣府令・ガイドライン等により定められる。実際の財団運営・公益認定にあたっては、税理士・公認会計士・弁護士等の専門家に相談されたい。