路上で生活する人の数は、統計の上では四半世紀で十分の一以下となった。だが数字の減少は、問題の消滅を意味しない。ネットカフェの個室で夜を明かす人々は調査の網にかからず、路上にとどまる人々は高齢化し、従来型の支援から遠ざかっていく。この膠着を解く鍵として世界が注目してきたのが、「まず住まいを」という単純にして根源的な転換——ハウジングファーストである。本稿ではその起源とエビデンス、日本の実践と制度をたどり、民間の資金が果たしうる役割を考える。

この記事の要点
路上生活者は過去最少に
厚生労働省の概数調査によれば、2003年の25,296人から2025年1月には2,591人へと約9割減少した。
「見えないホームレス」の存在
東京都の調査(2018年公表)は、住居を失いネットカフェ等で寝泊まりする人を都内で1日約4,000人と推計した。
起源は1992年のニューヨーク
非営利団体Pathways to Housingが、治療や就労を条件とせず住まいを先に提供するモデルを創始した。
高い住居維持率という実証
2000年発表の評価研究では参加者の約88%が住居を維持。国家戦略に採用したフィンランドは長期ホームレスを約7割削減した。
日本の制度も動いている
住居確保給付金の支給決定はコロナ禍の2020年度に約13.5万件(前年度の34倍)。居住支援法人制度の拡充も進む。

統計が示す減少、統計が映さないもの

厚生労働省は2003年から毎年1月、自治体職員の巡回・目視による「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)」を実施している。初回の2003年に25,296人を数えた路上生活者は一貫して減り続け、2025年1月調査では2,591人と過去最少を更新した(前年比8.1%減。最多は大阪府の763人、次いで東京都565人、神奈川県366人)。ホームレス自立支援特別措置法の下での自立支援センターの整備、生活保護運用の改善、民間支援団体の地道な働きが積み重なった成果であり、この減少自体は正当に評価されてよい。

しかしこの調査は、公園や河川敷、駅舎などで「目に見える」形で起居する人を数えるものにすぎない。屋根のある場所を転々としながら定まった住居を持たない人々は、はじめから定義の外に置かれている。

「見えないホームレス」の輪郭

東京都が2018年1月に公表した「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」は、この死角に光を当てた。都内のネットカフェ・漫画喫茶等のオールナイト利用者は平日1日あたり約15,300人、うち住居を失っている人は約4,000人と推計された。労働形態はパート・アルバイトや派遣労働など不安定就労が7割を超え、住居喪失の理由は「仕事を辞めて家賃等を払えなくなった」(32.9%)をはじめ離職に起因するものが過半を占めた。路上の2,591人という数字の背後に、その何倍もの規模の「見えないホームレス」が存在する——これが日本の現在地である。

ハウジングファーストという転回

従来の支援は「階段式」と呼ばれる。まず緊急シェルターに入り、施設で生活訓練や治療を受け、就労し、最後に自分の住まいへ——という段階を踏ませる設計である。だが各段階の「条件」を満たせない人、集団生活になじめない人は途中で脱落し、路上へ戻っていった。

1992年、米ニューヨークで設立された非営利団体Pathways to Housingは、この順序を逆転させた。精神疾患や依存症を抱える路上生活者に対し、治療の受け入れも断酒も条件とせず、まず通常の賃貸住宅の一室を提供し、医療・福祉の専門チームが本人の選択を尊重しながら訪問支援を行う。2000年に米学術誌に発表された評価研究では、参加者242人の約88%が住居を維持し、連邦資金による無作為化比較研究でも12か月後の住居安定率は80%と、従来型プログラムの24%を大きく上回った。住まいは回復の報酬ではなく、回復の前提である——この命題が、データによって裏づけられたのである。

国家戦略としての実証——フィンランド

このモデルを国家戦略に据えたのがフィンランドである。同国は2008年以降、長期ホームレスの解消を掲げる国家プログラムを推進し、緊急シェルターを恒久的な住宅へ転換、Y財団などの非営利組織が政府資金を得て住宅の取得・供給を担った。その結果、フィンランドはEUで唯一ホームレス数を減らし続ける国となり、長期ホームレスは2008年比で約7割減少したと報告されている。背景には「住まいは基本的人権である」という党派を超えた政治的合意があり、救急医療や司法手続き、施設収容に要していた費用の削減によって、財政面でも見合う施策であることが確認されている。

日本の実践——個室から始まる回復

日本でも2010年代から実践が積み重ねられてきた。東京・池袋では、2010年に始まった路上生活者への精神保健・生活支援の共同事業が2016年に「ハウジングファースト東京プロジェクト」と改称し、世界の医療団、認定NPO法人TENOHASI、一般社団法人つくろい東京ファンドなどが連携して、個室の住まいの提供と訪問型の支援を続けている。つくろい東京ファンドは2014年、中野区のビルの一室を改装した7室の個室シェルターから出発し、2025年9月時点で都内に計23室を借り上げるに至った。大部屋の収容型施設を拒んで路上に残っていた人が、鍵のかかる個室であれば申し出を受け入れる——現場が繰り返し報告するこの事実は、拒まれていたのは支援そのものではなく、尊厳を欠いた処遇だったことを示唆している。

制度の現在地——予防と伴走

住まいを失ってからの支援と並行して、失わせないための制度も整いつつある。生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金は、離職等で家賃を払えなくなった人に原則3か月(最長9か月)家賃相当額を支給する仕組みで、コロナ禍の2020年度には支給決定件数が約13.5万件と前年度の34倍に達し、住居喪失の防波堤として機能した。また2017年の住宅セーフティネット法改正で創設された居住支援法人制度は、保証人や緊急連絡先を欠く人の入居支援・見守りを担う法人を都道府県が指定するものであり、2024年の同法改正では入居中の安否確認や福祉との連携を組み込んだ「居住サポート住宅」が制度化された(2025年10月施行)。住まいの確保と、その後の伴走を一体として支える方向へ、制度は静かに舵を切っている。

寄付者への示唆——住まいという最初の一歩に投資する

ハウジングファーストの含意は、フィランソロピーにとって明快である。第一に、公的統計と制度は「路上」に照準を合わせがちであり、ネットカフェ等に潜在する層への接触や、制度の狭間に落ちた人への対応は、民間の機動力に負うところが大きい。第二に、個室シェルターの開設費用、入居時の敷金や家具、保証料といった「最初の一歩」の費用は一件あたり数十万円の規模であり、寄付の効果が可視化されやすい。第三に、日本には海外のような大規模な効果検証がなお乏しく、実践と研究をつなぐ資金には希少価値がある。路上の数字が過去最少となった今こそ、見えない領域へ資金を振り向ける好機である。住まいとは慈善の終着点ではなく、回復の出発点なのだ。

出典・参照

  • 厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について」(2025年公表、調査開始2003年)
  • 東京都「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」(2018年1月公表)
  • "Pathways to Housing: Supported Housing for Street-Dwelling Homeless Individuals With Psychiatric Disabilities" Psychiatric Services 51(4)(2000年)
  • ビッグイシュー・オンライン「フィンランドのホームレス人口が減少している理由」ほかフィンランド・Y財団関連記事
  • 一般社団法人つくろい東京ファンド「『住まい』に関する支援事業」ほか公表資料、厚生労働省審議会提出資料
  • 厚生労働省 生活困窮者自立支援制度・住居確保給付金 制度資料および支給実績
  • 国土交通省「住宅確保要配慮者居住支援法人について」「住宅セーフティネット法等の一部を改正する法律について」

本稿に記載した数値・制度の内容は各出典の公表時点のものであり、最新の状況は各機関の一次資料をご確認いただきたい。本稿は特定の団体への寄付を勧誘するものではなく、寄付・助成の判断は読者ご自身の検討に基づき行われたい。