学校に通わない小中学生が35万人を超えた。2016年の教育機会確保法は「学校に戻ることだけがゴールではない」と国の姿勢を転換させたが、学校の外の学び場——フリースクール——の費用は、今なお家庭の私費に大きく依存している。義務教育が無償であるはずのこの国で、学びの場を変えた途端に月数万円の負担が生じる。この構造の隙間にこそ、民間フィランソロピーの働きどころがある。

この記事の要点
不登校の小中学生
2024年度(令和6年度)に35万3,970人。12年連続で増加し過去最多を更新した(文部科学省調査、2025年10月公表)。
教育機会確保法
2016年12月成立。学校外の多様な学びの重要性と「休養の必要性」を法律に明記し、国と自治体に財政支援の努力を求めた。
フリースクールの費用
文科省2015年調査では全国474施設、月会費の平均は約3万3,000円。費用は原則として家庭の私費負担である。
自治体の助成
東京都は2024年度から利用料を月額最大2万円助成。神奈川県も市町村の経済的支援を後押しするが、全国的には未整備の地域が大半。
民間資金の役割
ベネッセこども基金の助成や休眠預金等活用制度など、財団・民間資金が家庭への支援と運営基盤の双方を支え始めている。

35万人という現実

文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、2024年度(令和6年度)に病気や経済的理由以外の要因で年間30日以上欠席した小中学生は35万3,970人。12年連続の増加であり、過去最多を更新した。前年度の2023年度(令和5年度)は34万6,482人で前年比15.9%増と急増しており、増加のペースこそ緩んだものの、水準そのものは高止まりしている。

見過ごせないのは、このうち13万5,724人、全体の38.3%が学校内外の機関等で専門的な相談・指導等を受けていないという事実である(令和6年度調査)。約4割の子どもが、支援の網の外で日々を過ごしている。学校の中の資源だけでこの数を受け止めることは、もはや現実的ではない。

教育機会確保法が変えたもの

2016年12月に成立した「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」、通称・教育機会確保法は、不登校政策の静かな転換点だった。学校復帰を唯一の目標としてきた従来の施策を改め、学校外での「多様で適切な学習活動」の重要性と、子どもの「休養の必要性」を法律に明記した。フリースクールや教育支援センター、夜間中学といった学校以外の学びの機会を確保することを国と自治体の責務とし、必要な財政支援に努めるよう求めたのである。

ただし、条文の多くは努力義務にとどまる。理念は掲げられたが、学校外の学びに公費を流す恒常的なパイプは、いまだ細いままである。理念と財源の間に横たわるこの落差が、本稿の主題である。

フリースクールの実像と家計の負担

文科省が2015年に実施した全国実態調査では、義務教育段階の子どもが通う民間の団体・施設は全国474カ所、通う小中学生は少なくとも約4,200人とされた。月会費の平均は約3万3,000円、入会金の平均は約5万3,000円。調査から10年を経て不登校は当時の約3倍に膨らんでおり、実際の施設数・利用者数はこれを大きく上回るとみられるが、全国規模の公式調査は更新されていない。実態の把握自体が、この分野の政策の弱さを物語っている。

月3万円強という負担は、義務教育の「無償」と対照的である。公立学校に通えば発生しない費用が、学びの場を変えた家庭にだけ発生する。経済力が学校外の学びへのアクセスを左右する——教育機会の平等を掲げる国の中に、そうした構造が静かに存在している。

動き始めた自治体の助成

この構造への公的な応答として注目されるのが、自治体による利用料助成である。東京都は2024年度から「フリースクール等利用者等支援事業」を開始し、都内在住の不登校の小中学生の保護者に対し、フリースクール等の利用料を月額最大2万円助成する。港区のように独自の上乗せ助成を行う区市も現れた。神奈川県も、市町村が保護者へ経済的支援を行う取り組みを後押しする事業を展開している。

ただし全国を見渡せば、助成制度のない地域が依然として大半であり、助成があっても月会費との差額は家庭に残る。住む場所によって学校外の学びへの距離が変わる「地域格差」は、制度の先行地域が生まれたことで、むしろ輪郭を鮮明にしつつある。

運営側もまた脆弱である

費用の問題は家庭だけのものではない。フリースクールの多くは小規模なNPOや任意団体であり、収入の柱は利用料に限られる。会費を下げれば経営が立ちゆかず、上げれば通えない家庭が増える。この二律背反の中で、スタッフの処遇や場の継続性が犠牲になりやすい。子どもにとって学び場の突然の閉鎖は、二度目の喪失にほかならない。学校外の学びを持続可能にするには、家庭への利用料支援と、運営基盤への投資という両輪が要る。

民間資金の働きどころ

公費が届きにくいこの領域では、民間財団の資金が先行してきた。公益財団法人ベネッセこども基金は「経済的困難を抱える子どもの学び支援活動助成」を継続的に実施しており、フリースクール等の学び場もその射程に含まれる。また近年は、休眠預金等活用制度を通じて、不登校や学校外の学びを支える団体への資金供給も行われるようになった。

個人の資金提供者にとっての選択肢は、大きく三つある。第一に、利用料減免の原資となる奨学金型の寄付。経済的理由で学び場に通えない子どもに直接届く。第二に、団体の運営基盤——人件費や拠点維持費——を支える、使途を限定しない継続寄付。利用料に依存する経営の脆弱さを直接和らげる点で、この形の資金は希少価値が高い。第三に、学び場が存在しない地域での設立支援である。いずれを選ぶにせよ、単年度で終わらない複数年のコミットメントが、この分野では特に大きな意味を持つ。

寄付者への示唆——制度が追いつくまでの橋

不登校35万人という数字は、学校制度の失敗の記録としてではなく、学びの形が多様化する過渡期の指標として読むべきだろう。教育機会確保法が理念を掲げ、東京都をはじめとする自治体の助成が緒に就いた今、民間資金の役割は「制度が追いつくまでの橋」を架けることにある。公費の仕組みが全国で整うまでには、なお年月を要する。その間に学齢期を過ごす子どもたちの時間は、待ってはくれない。機動的に動ける民間の資金だけが、その時間に間に合う。相続財産の一部を学びの支援に振り向ける遺贈寄付も、世代を超えてこの分野を支える確かな選択肢となる。

出典・参照

  • 文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(2025年10月公表)
  • 文部科学省「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(2024年10月公表)
  • 「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(教育機会確保法、2016年12月成立)
  • 文部科学省「小・中学校に通っていない義務教育段階の子供が通う民間の団体・施設に関する調査」(2015年8月公表)
  • 東京都「フリースクール等利用者等支援事業」(2024年度開始)
  • 神奈川県「フリースクール等に通う子どもへの支援(市町村による取組を支援)」
  • 公益財団法人ベネッセこども基金「経済的困難を抱える子どもの学び支援活動助成」

本稿は公開情報に基づく一般的な解説であり、特定の団体への寄付を勧誘するものではない。制度・数値は執筆時点(2026年7月)で確認した各出典によるものであり、最新の内容は各機関の公表資料を確認されたい。