配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談は、令和6(2024)年度で12万7,796件にのぼる(内閣府男女共同参画局、2025年12月公表)。統計の背後には、公的制度だけでは掬いきれない避難と生活再建の現実があり、その隙間を長く支えてきたのが民間シェルターである。だが、その財政基盤は驚くほど脆い。本稿では、被害者保護という繊細な領域において民間資金が果たしうる役割を、公表統計と法制度の変化から静かに考えたい。なお被害当事者の安全のため、施設の所在地等の具体情報には一切触れない。
- 相談件数の水準
- 配偶者暴力相談支援センターへの相談は令和6年度127,796件。統計開始の平成14年度(35,943件)の約3.6倍で、令和2年度に過去最高(129,491件)を記録して以降、高止まりが続く(内閣府)。
- 相談窓口の体制
- 全国の配偶者暴力相談支援センターは317か所(令和6年度・内閣府集計)。これに加え、内閣府の「DV相談プラス」には令和6年度に45,858件の相談が寄せられた。
- 民間シェルターの最大の課題
- 内閣府の概況調査(2023年7月公表、2022年度対象)で、83.6%の施設が「財政的基盤の脆弱性」を課題に挙げた。収入源の柱は行政補助金と寄付である。
- 緊急保護の担い手
- 令和6年度に配偶者暴力相談支援センターが行った緊急時の安全確保598件のうち、受け皿の最多は「民間団体等」の256件。公的な緊急対応は民間の存在を前提に成り立つ。
- 法制度の転換
- 困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(困難女性支援法)が2024年4月に施行。民間団体との「協働」が基本理念に明記され、官民連携が制度の柱となった。
年間12.8万件という水準が意味するもの
内閣府男女共同参画局の集計によれば、全国317か所の配偶者暴力相談支援センターが令和6年度に受けた相談は127,796件で、前年度から約1%増えた。統計を取り始めた平成14(2002)年度は35,943件であったから、20年余りで約3.6倍である。令和2(2020)年度に129,491件と過去最高を記録した後も、水準はほとんど下がっていない。さらに、内閣府が2020年4月に開設した「DV相談プラス」には令和6年度に45,858件の相談が寄せられており、電話・SNSを合わせた相談の総量は公的センターの数字だけでは測れない。相談件数の増加は、被害そのものの増加だけでなく、声を上げられるようになった被害の可視化でもある。問題は、相談から保護へ、保護から自立へと続く通路が、依然として細いことにある。
公的保護の構造と「隙間」
公的な一時保護は、都道府県の女性相談支援センター(旧・婦人相談所)とその委託先が担う。しかし集団生活の規律や通信の制約、同伴する子どもの事情、就労や通学の継続の難しさなどから、公的保護の利用をためらう被害者は少なくない。外国籍、障害のある人、男性の被害者など、既存の枠組みに収まりにくい人々もいる。実際、令和6年度の日本語が十分に話せない被害者からの相談は1,825件、障害者である被害者からの相談は14,409件にのぼる(内閣府)。象徴的な数字がある。同年度に配偶者暴力相談支援センター自身が実施した緊急時の安全確保598件を施設別に見ると、「民間団体等」が256件と最多で、自らの施設(83件)やホテル等(88件)を大きく上回る。公的機関の緊急対応が、民間の受け皿に支えられているという構図である。
民間シェルターの実像
内閣府が2023年7月に公表した「DV被害者等のための民間シェルター等概況調査」(2022年度対象、回答は延べ140件)は、この領域の実像を伝える貴重な資料である。2022年度の延べ利用者は1,925人(同伴児童を除く)。入所理由は「配偶者からの暴力被害」が44.1%で最多、「住居問題・居場所なし」が23.0%と続き、暴力被害関連を合計すると6割を超える。支援内容は、料理や買い物同行などの日常生活支援(91.4%)、警察や裁判所への同行支援(84.3%)など、生活の全域に及ぶ。一方で担い手を見ると、スタッフは非常勤が40.0%、ボランティアが22.5%を占め、平均年齢は60代以上が約4割。常勤スタッフの平均年収は「300万円以上400万円未満」が最多の18.6%で、「100万円未満」も10.0%ある。高度に専門的で危険も伴う仕事が、薄い処遇と個人の使命感の上に成り立ってきたことを、数字は静かに示している。
財政的基盤の脆弱性という最大の課題
同調査で施設が挙げた課題の第1位は「財政的基盤の脆弱性」で83.6%。「スタッフの高齢化等による人的支援の不足」(53.6%)、「地域による支援のばらつき」(46.4%)が続く。運営資金の上位は「行政からの補助金・助成金」(69.3%)、「寄付金・カンパ」(50.0%)、「行政からの一時保護委託費」(37.9%)である。規模感を示す数字として、内閣府の検討会報告書(2019年5月)は、都道府県等が把握する民間シェルター運営団体を107とし、平成30(2018)年度に地方公共団体の財政措置の対象となった民間団体は延べ236、総額約2億円であったと記す。単純に均せば1団体あたり年間100万円に満たない。国の「性暴力・配偶者暴力被害者等支援交付金」を活用する団体は専門職の配置や支援メニューで優位に立つという調査結果もあるが、公費は原則として単年度・使途限定であり、施設の維持や人材の定着といった経営の根幹を支える構造にはなっていない。
困難女性支援法がひらく「協働」の枠組み
2024年4月、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(2022年成立)が施行された。売春防止法を根拠としてきた従来の婦人保護事業から脱却し、婦人相談所は女性相談支援センターへと改組された。この法律の要諦は、支援が「関係機関及び民間の団体の協働」により早期から切れ目なく行われるべきだと基本理念に明記した点にある。アウトリーチや居場所の提供など、民間団体が先駆的に実践してきた手法が制度の言葉として位置づけられ、民間は行政の下請けではなく対等な担い手とされた。ただし、協働の実効性は自治体の姿勢と委託費・補助の水準に左右される。地域間格差という調査上の課題は、新法施行後もただちには解消されない。制度が理念に追いつくまでの移行期を支える資金が、いま最も必要とされている。
民間資金にしかできない仕事
公費の隙間を埋める資金源は既に動き始めている。休眠預金等活用制度では、中央共同募金会などが資金分配団体として、住まいを失った人やDV等の影響下から逃れる人のシェルター事業を含む居住支援に助成してきた実績がある。同会の赤い羽根福祉基金も「公的制度やサービスでは十分に対応できない、制度のはざまの課題」への助成を掲げる。では、個人の寄付者・財団は何を心がけるべきか。第一に、使途を細かく縛らない運営費への寄付である。家賃・光熱費・人件費こそが施設の生命線であり、人件費を忌避する寄付文化は現場を疲弊させる。第二に、単年度で終わらない複数年の継続支援。第三に、安全への配慮である。所在地や利用者に関する情報を求めない、視察や訪問を前提としないという抑制は、この分野の寄付における作法に属する。フィランソロピーの本領は、制度が現場に届くまでの時間を買うことにある。静かに、しかし途切れなく資金を送り続けることが、避難した人の明日を支える。
- 財団・助成団体データベース——女性支援・人権分野を含む助成財団を財務データとともに横断検索できる。
- サービス一覧——寄付先の調査や助成プログラム設計など、当メディアが提供する支援メニューの一覧。
- 動物福祉への寄付——殺処分ゼロと、その先の設計——関連論考。
- 芸術文化への寄付——アーツカウンシルと「アームズ・レングス」の思想——関連論考。
- 遺贈寄付の現在地——人生の最後に、意志を手渡す——関連論考。
出典・参照
- 内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等(令和6年度分)」(2025年12月公表、gender.go.jp)
- 内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターへの相談件数の推移(年次)」(gender.go.jp)
- 内閣府男女共同参画局「DV被害者等のための民間シェルター等概況調査(結果の概要)」(2023年7月、gender.go.jp)
- 内閣府男女共同参画局「DV等の被害者のための民間シェルター等に対する支援の在り方に関する検討会 報告書」(2019年5月、gender.go.jp)
- 困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(令和4年法律第52号、2024年4月施行)関係資料(厚生労働省、mhlw.go.jp)
- 中央共同募金会「休眠預金等活用事業」「赤い羽根福祉基金」(akaihane.or.jp)
本稿は公表資料に基づく解説であり、特定団体への寄付を勧誘するものではない。統計値は執筆時点(2026年7月)の公表内容による。被害当事者の安全のため、シェルターの所在地等は記載していない。配偶者からの暴力に悩む場合は、DV相談ナビ(#8008)またはDV相談プラス等の公的窓口に相談されたい。