個人のふるさと納税が返礼品競争とともに語られる一方で、その企業版は静かに、しかし着実に規模を拡大してきた。正式名称を地方創生応援税制という。2016年度の寄附額は約7.5億円にすぎなかったが、2024年度には約631億円——8年で80倍を超えた(内閣府地方創生推進事務局公表値)。返礼品は一切ない。それでも企業が寄附を増やし続けるのはなぜか。本稿は制度の骨格と実績、そして限界を、経営者の視点から検討する。

この記事の要点
制度の骨格
2016年創設。国が認定した地域再生計画に基づく自治体の地方創生事業への寄附が対象。2020年度税制改正で税額控除が引き上げられ、損金算入と合わせ税負担軽減は最大約9割となった。
寄附実績
2024年度(令和6年度)は約631.4億円・18,457件・8,464社(内閣府、2025年9月公表)。2019年度まで30億円台で停滞していたが、2020年の拡充を境に急拡大した。
人材派遣型
2020年10月創設。寄附とともに自社人材を自治体等へ送り出す仕組みで、2023年度は98自治体が活用した。
主なルール
1回10万円以上。本社が所在する自治体への寄附は対象外。寄附の代償として経済的利益を受け取ることは禁止され、地方交付税の不交付団体等も対象外となる。
制度の期限
令和7年度税制改正で適用期限が3年延長され、2027年度末(2028年3月31日支出分)まで。チェックリスト導入や寄附法人名の公表等の適正化措置も講じられた。

制度の骨格——実質負担約1割の寄附

企業版ふるさと納税は、2016年の地域再生法改正により創設された。内閣総理大臣が認定した地域再生計画に位置づけられる自治体の事業——まち・ひと・しごと創生寄附活用事業——に企業が寄附を行うと、通常の損金算入による軽減(約3割)に加えて、法人関係税から税額控除を受けられる。内訳は法人住民税が寄附額の4割(法人税割額の一定割合が上限)、法人事業税が2割、法人住民税で控除しきれない分は法人税から控除される(内閣府地方創生推進事務局の制度資料による)。

創設当初、税額控除は3割であり、損金算入と合わせた軽減は約6割にとどまった。転機は2020年度税制改正である。税額控除割合が6割へ倍増し、合計で最大約9割——100万円を寄附すれば実質負担は約10万円という水準になった。手続も簡素化され、企業側の使い勝手は大きく改善した。

停滞から急拡大へ——数字が示す転換点

内閣府が毎年公表する寄附実績の推移は、この改正の効果を雄弁に物語る。初年度の2016年度は約7.5億円(517件)。以後、2017年度約23.6億円、2018年度約34.8億円、2019年度約33.8億円と、30億円前後で伸び悩んだ。ところが改正初年度の2020年度に約110.1億円へ跳ね、2021年度約225.8億円、2022年度約341.1億円、2023年度約470.0億円(14,022件・7,680社)と毎年度100億円規模で積み上がった(内閣官房・内閣府「令和5年度寄附実績について」2024年8月)。

最新の2024年度は約631.4億円・18,457件で、寄附企業は8,464社に達した(内閣府、2025年9月公表)。制度開始からの累計で寄附を受け入れた自治体は1,631団体にのぼり、全国の自治体の9割超が一度は本制度を活用した計算になる。個人版の受入額(兆円規模)には遠く及ばないものの、自治体の政策財源としては無視できない太さの水脈に育った。

人材派遣型——資金とともに人を送る

2020年10月には「人材派遣型」が創設された。企業が人件費を含む事業費に寄附を行い、あわせて専門的知見をもつ自社人材を、寄附活用事業に従事する自治体の職員や地域活性化団体の一員として送り出す仕組みである(内閣府の制度概要資料による)。2023年度には98の自治体がこれを活用した(内閣府「令和5年度寄附実績について」)。

経営の観点から見れば、これは寄附というより越境的な人材育成投資に近い。実質負担約1割で社員に地域経営の最前線を経験させ、自治体側は都市部企業のノウハウを得る。資金の移転に人の還流が伴うとき、寄附は単発の贈与から継続的な関係へと性質を変える。企業版ふるさと納税の中で最も注視すべき進化がここにある。

資金はどこへ流れているか

2023年度の使途を分野別に見ると、地域産業や観光の振興を含む「しごと創生」が約214.1億円と最大で、「まちづくり」約181.6億円、「地方への人の流れ」約45.1億円が続く(内閣府公表値)。受入額上位には宮城県・仙台市のほか、2024年の能登半島地震で被災した石川県が並び、同年度には地震関連だけで約36.9億円が寄せられた。災害時の機動的な企業支援の回路として機能した事実は記憶されてよい。

また、航空宇宙分野の実証拠点を寄附で整備した北海道大樹町や、サテライトオフィス集積で知られる徳島県神山町など、明確な事業構想をもつ小規模自治体が大口の寄附を集める例も目立つ。資金は「ばらまかれる」のではなく、構想力のある地域へ選別的に流れている。

ルールと留意点——本社所在地には寄附できない

制度を利用する経営者が押さえるべきルールは明快である。第一に、1回あたり10万円以上の寄附が対象となる。第二に、本社——地方税法上の主たる事務所——が所在する自治体への寄附は税額控除の対象外である。地元への貢献を意図する企業にとっては意外な制約だが、税収の内部循環を防ぐための設計である。第三に、寄附の代償として経済的利益を受け取ることは禁止され、個人版のような返礼品は存在しない。補助金や入札上の優遇と引き換えにすることも許されない。第四に、地方交付税の不交付団体(東京都など)への寄附は対象外となる。財政力の高い地域から乏しい地域へという再分配の思想が、制度の隅々にまで貫かれている。

期限と課題——制度は2027年度まで

適用期限は当初2024年度末とされていたが、令和7年度税制改正で3年延長され、2027年度末(2028年3月31日までの支出分)までとなった。延長にあたっては、事業の各段階でのチェックリスト導入、寄附法人名の公表、地域再生計画の認定取消しを受けた自治体に対する2年間の欠格期間の創設など、適正化措置が講じられている(内閣府の令和7年度税制改正資料による)。裏を返せば、寄附の還流や周旋をめぐる不適切事例が現に指摘されてきたということでもある。

本質的な問いは、この資金が地域を変えるかである。約9割の軽減とは、寄附の原資の大半が国と自治体の税収から振り替えられることを意味する。企業が果たすべきは、残る1割の負担に、資金以上のもの——事業構想への関与、人材、販路、信用——を上乗せすることだろう。それができる企業にとって、本制度は節税策ではなく、経営資源を地域に再配分し、長期の関係資本を築くための制度的な回路である。期限が区切られた今こそ、自社の事業と重なる地域課題を見定め、単発の寄附を関係へと深める設計を始めたい。

出典・参照

  • 内閣府地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税ポータルサイト」(制度概要・税額控除の仕組み)
  • 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の令和5年度寄附実績について」2024年8月30日(年度別寄附額・件数、人材派遣型の活用団体数、分野別使途、能登半島地震関連寄附額)
  • 内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の令和6年度寄附実績」2025年9月公表(2024年度の寄附額約631.4億円・18,457件・8,464社、累計寄附活用団体数)
  • 内閣府地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税(人材派遣型)の概要」2020年10月
  • 内閣府地方創生推進事務局「令和7年度税制改正における地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の延長」資料(3年延長・適正化措置)

本稿は2026年7月時点で公表されている情報に基づく一般的な解説であり、個別の税務・法務上の助言を構成するものではない。制度の適用にあたっては、最新の法令・内閣府資料を確認のうえ、税理士等の専門家に相談されたい。